リタイア後も社会で輝く
- 2018/07/31
- 20:30

リタイアしたら「何か人の役に立つことに取り組んでみたい」と考えているニュー・エルダーの方も多いのでは? これまで経験したもの、身につけたものを社会に還元する行為は、たとえ収入を伴わなくても、生きる上で大きな支えとなる“精神的充実感”を与えてくれるものです。
今回登場する認定特定非営利活動法人「経営支援NPOクラブ」は、第一線を離れた企業OBなどが豊富な知識・経験、人脈を活かし、“ボランティア精神”で中小企業や地方企業の経営支援を行うNPO団体です。
その一方で、活動を通じてシニアの活用と生きがいの創出に寄与し、自己活性化につなぐことを標榜している点が注目されます。最近は「自然大災害復興支援」や「次世代若者育成支援」など、社会貢献活動も一段と活発に取り組んでいます。
ニュー・エルダーに“第二の人生”の範を示す、「経営支援NPOクラブ」の概要や活動状況などを紹介します。
◆ほぼ全業種の企業OBが集う経営支援NPOクラブ
東京・千代田区の内神田を拠点に活動する経営支援NPOクラブ(山口浩利理事長、以下NPOクラブ)。2002年6月に設立され、同年10月に東京都の特定非営利活動NPO法人として認定されました。
以来、「ビジネス分野での社会貢献にボランティア精神で取り組む」ことを基本理念に掲げ、全国の中小企業の経営をサポートしています。
直近(2018年5月現在)の会員数は、正会員が212人、法人で構成される賛助会員が12法人。正会員の出身企業数については120余社に及び、ほぼ全業種を網羅しています。かつ、異なる部署/専門分野(人事・財務・企画・営業・購買・設計・生産分野等)の経験者が集うので、さまざまな視点からフレキシブルな評価が可能な組織といえるでしょう。
「会員の専門分野は、機械、化学品、食料を始めとする生活産業から、環境・エネルギー、IT、金融、医療福祉等々。カバーしてない分野はおそらくありません。管理部門についても、人事、財務、経理、法律など、すべてスペシャリストがそろっています」
と説明するのは、三井物産OBの荻田浩特別顧問。NPOクラブの勃興期にあたる08年から13年にかけ、二代目理事長を務めました。
「ほとんどが一部上場企業の出身者で、リタイア後、しばらく子会社の社長や専務、常務などを務めていた人が多い。多種多様で、そうそうたる経歴を持つ人たちが参画しているので、全方位型の業種と専門分野にわたる支援が可能です」
また、会員の中には海外駐在経験者が多くいることから、海外展開などグローバルな支援もできるのが強みとか。NPOクラブの特徴をまとめると、右下のチャートの通りになります。
NPOクラブの支援内容は、①経営相談(マーケティング、新商品開発、生産性向上等)、②販路開拓(商品に応じたマッチング。発注企業を訪問して紹介)、③展示会・フェア出展時の来場者招聘(会場に発注企業を招き、出展ブースで商品を紹介、商談へ)、④海外展開支援(商品を英語で海外に紹介するポータルサイトの運営等)、⑤セミナー・講演会・工場見学(実践的課題のセミナー・講演会等の開催)――の5つ。なかでも、②販路開拓の要望が圧倒的に多いそうです。
支援活動では会員の中で案件チームを組み、複眼的に課題を解決するのが特徴です。これによって妙案が浮かび、着実に実績を積み重ねていったとか。それとともに、活動範囲も関東地区から全国へと広がっていきました。過去3年の支援実績と主な受託機関は下の通り。NPOクラブの目を見張る活躍ぶりがみてとれます。
現在、全国各地から地元企業の支援依頼を受けるというNPOクラブ。会員は東奔西走と大忙しですが、その報酬は交通費と日当1000円、プラス実費のみ。意外にも、見返りはほとんどありません。
「収入源は公的機関からの委託料が入りますが、事務所の家賃・維持費や会員への諸経費、将来に備えた蓄えなどで、ほとんど残りません。それでもみんなやりがいを感じ、16年間1回も赤字を出さず意欲的に活動しています」(荻田特別顧問)
現役時代に大手企業で活躍してきた人たちが、ほぼ無償で働くNPOクラブ。どんなところに魅力を感じ、その卓越したキャリアに匹敵する充実感を得ているのでしょうか。
関心の赴くまま、設立の経緯を尋ねてみました。
◆中小企業を支援すべく設立、経産省からも依頼が
「卒業したら何をやろうか」
東京・大手町の旧三井物産本店(現在超高層ビルの再開発中)でのこと。退職を間近に控えた商社マンたちが顧問室に集まり、今後の身の振り方について話し合っていました。その輪の中心にいたのが、NPOクラブの初代理事長・大貫義昭さん(理事長就任期間:02~08年)。三井物産で副社長まで務め、当時同社の顧問に就いていました。
「家で趣味に没頭するか、引き続き社会で活躍するか。趣味は展覧会に出展するなど、よほど本格的に打ち込んでいないと続かない。それなら、自分たちの中に積み上げてきたもので何かやろう、ということになりました」
荻田特別顧問によると、ベンチャー企業を興す話も出たようですが、それだと利益を追求してきた現役時代となんら変わりません。社会の役に立てることをあれこれ考え、結果、中小企業を支援するNPOの設立という構想が生まれたそうです。
そして、冒頭の通り02年6月、三井物産OBなど18人がNPOクラブを立ち上げ、大貫さんが初代理事長に就任、活動をスタートさせました。
そして、冒頭の通り02年6月、三井物産OBなど18人がNPOクラブを立ち上げ、大貫さんが初代理事長に就任、活動をスタートさせました。
さっそく、「中小企業の役に立てそうなこと」を模索し始めたメンバーたち。当初、その多くがグローバルにビジネス展開する総合商社出身者だったこともあり、中小企業の相談事は海外進出や法律的トラブルが中心になるとイメージしていました。時は2000年初頭。90年代はあらゆる産業分野で海外進出が活発化し、中小企業も大手企業との取引継続を図ろうと、国際化に積極的だった印象が強く残っていたのです。
ところが、実際に地方の商工会議所へ赴き、中小企業が求めている支援内容を尋ねたところ、強く要望されたのは「販路開拓」でした。
バブル崩壊後の長引く不況により、大手企業では中小企業との取引を減少、あるいは停止する動きが相次ぎました。そのため中小企業は逼迫し、独自の力で活路を見出さざるを得ない状況にあったのです。
しかし、日本は欧米と比べ大手企業と中小企業の壁が厚く、大手は資本金や従業員数などをチェックし、なかなか中小を相手にしようとしません。そこで、NPOクラブの会員が仲介や口利きなどで、中小企業の販路開拓支援に乗り出しました。
「最初の支援先は、栃木県鹿沼市の商工会議所を通じた案件。大きな成果を収め、それをきっかけに、さまざまなところから声が掛かるようになりましたね」(荻田特別顧問)
関東経産局を始め、地方自治体やその公的支援機関、商工会、金融機関などから、「販路開拓支援」のほか「調査案件」「事業評価」等の委託を受け、逐次実績を積み重ねていったNPOクラブ。活動を継続していくうちに、1件を1人が担当するより、3〜5人で多角的に対応する方が効果的なことがわかりました。
一方、大手企業出身という意識が抜けきらず、無自覚で上から目線で振る舞う会員もいて、支援先からクレームが寄せられる事態もあったとか。そこで、会員教育にも注力するなど、支援体制を徐々に整えていきました。
こうした取り組みが奏効し、次第に高評価を得て活動範囲も関東地区から全国へ拡大。評判を聞きつけ、今では経済産業省からも直接依頼(例:福祉介護関係でプロジェクト・チームを組成)が来るまで知名度を高めています。
◆社会貢献活動にも精力的に取り組むNPOクラブ
近年、企業の社会的責任(CSR)がすっかり浸透してきました。
NPOクラブにおいても、社会貢献への気概を持つ会員の自由闊達な意思を尊重し、中小企業の経営支援以外に、講演会事業や次世代若者育成支援、自然大災害復興支援などを精力的に推進中です。
講演会事業では、会員の豊富な実務経験を活かすべく、企業・地方公共団体、学校等の教育機関に講演会や講義の講師を派遣しています。学校関係では高崎経済大学が開設するリレー講座にも、「世界における日本の役割と若者への期待」等をテーマに会員10数人が講師を務めるなど、取り組みは活発化している状況です。
次世代若者育成支援では、文部省が推進する「土曜学習応援団」に参画しているほか、国立研究開発法人科学技術振興機構がお台場で主催する「サイエンスアゴラ」(“あらゆる人に開かれた科学と社会をつなぐ広場”の総称で知られるイベント)にも参加しています。
「土曜学習応援団」は、子どもたちの土曜日の豊かな教育環境を実現すべく、企業・団体・大学等が出前授業の講師派遣などで協力する取り組みです。NPOクラブは昨年度、小学4年生~高校3年生を対象に『日本の創エネ・省エネを考えてみよう』と題する出前授業を各地で実施。普段、実業経験豊富な人から話を聞く機会のない子どもたちはもちろん、先生にも好評を博しました。
「サイエンスアゴラ」はすでに5年目になりますが、昨年度、全業種・業態の企業等の実務経験者が会員である特色を活かし、会員17人が「実務の達人」として生徒・学生や教師、若手企業人などと、『学校と社会と仕事のつながりを話そう!』のテーマで対話しました。訪問者数は約150人に上り、「進路・人生相談など、具体的に考える面白い企画だった」などの感想が聞かれたそうです。
なお、サイエンスアゴラの企画活動をきっかけに、「土曜学習応援団」事務局・地域コーディネーターから依頼を受け、昨年2月、「地域学校協働推進フォーラムinつくば」に参加したことも追記しておきます。
自然大災害復興支援では、東日本大震災発生から3カ月後の11年6月より、福島を中心に「福幸プロジェクト」を編成。震災発生後7年を経過した現在、全国的に起こる「自然災害」に対して今年度から「東日本大震災支援」は福島から周辺地区へ、そして「農業」「観光」「エネルギー」の再生をターゲットに、長期間継続的な活動を展開中です。具体的な取り組みは下の通りです。
17年2月、「福幸プロジェクト」活動が6年目に入ったのを機に、NPOクラブでは「福島復興再生5周年記念セミナー」を都道府県会館(千代田区平河町)で開催しました。これまで連携してきた団体に講演を依頼し、約120人の参加がありました。現在福島県は、より創造的な復興を目指す「ふくしま創生総合戦略」活動への転換を図っているところです。
◆「認定」資格を取得、「選ばれたNPO」へ
16年12月、NPOクラブは東京都から「認定NPO」の資格を取得しました。全国のNPO法人は約5万2000社ありますが、認定を受けているのはわずか1080社弱。東京都でも275社と2%です。
まさに、「選ばれたNPO」といっても過言ではないでしょう。
NPOクラブが他のNPO組織と一線を画す特色は、支援活動の内容もさることながら、①企業並みに完成度の高い運営組織、②厳格な損益計算に基づく財務管理――などが挙げられます。
①のNPOクラブの運営組織については下の通り。会員が活動を通じて、さまざまな経験を積む中で試行錯誤し、構築していきました。支援案件は、公的機関経由で支援する「公的機関案件」と、顧客企業に直接支援する「一般案件」の2つに分類しています。
「地域案件開発チーム」は、中央官庁、地方自治体・中小企業を支援する自治体の外郭団体、商工会議所・商工会、金融機関等の取組み先をチーム編成でカバーします。
「案件担当グループ」は、業種別に分類されたA〜Eの5グループで形成され、各グループはリーダーと複数のサブリーダーで構成されています。任務は、地域案件開発チーム等が受託した「公的案件」及び「一般案件」の受託要件の実現に務めること。A〜Eグループの内容については、Aが「食品・水産物」、Bが「化学品」、Cが「機械」、Dが「情報系機械」、Eが「その他」。各グループのメンバーは、専門性や希望により登録され、複数のグループに登録することも可能です。
「業務推進委員会」は、地域案件開発チームと案件担当グループの各リーダーがメンバーとなり、原則毎月1回会議を開催しています。受託案件の精査、案件担当グループの決定、支援案件の進捗状況の把握などを委員会で確認します。
一方、②のNPOクラブの財務管理については、熟慮した緻密な管理により、設立以来、一度も赤字計上していない点が刮目されます。
「我々は大手企業出身者が多いこともあり、採算の合った活動をしようという気風が強い。今後、次世代若者の育成支援など、社会貢献等で活かすことも考えています」(荻田特別顧問)
NPOクラブの主な財源は、会員が納める会費、業務受託料等の事業収益、寄付金が占めています。このうち会費についてみていくと──。
会員の種類は①正会員、②賛助会員のほか、NPOクラブに継続的な経営支援を要望する③特定支援契約法人(18年5月現在で44社)の3つ。会費については①が入会金1万円・年会費5000円・寄付金5000円、③が入会金5万円・年会費(一口)5万円です。
会員の年齢層については、現在平均年齢は71歳。60代は若手として扱われます。性別では、女性会員の人数は10人弱とのこと。しかし、最近、男性陣に負けない経歴を持つ逸材がそろいます。
「若い人材と女性会員を増やしていくことが今後の課題」(荻田特別顧問)とのことです。
「若い人材と女性会員を増やしていくことが今後の課題」(荻田特別顧問)とのことです。
なお、NPOクラブの正会員になる条件は特に設けておらず、
「現役時代に培ったビジネス経験を中小企業の経営支援に活かしてみたいというお気持ちがあり、NPOクラブの活動理念にご賛同いただける方なら、どなたでも参加できます。年齢制限もありません」
と、荻田特別顧問は話します。実際、過去にNPOクラブが支援した中小企業の人材も、正会員として参加していたことがあるそうです。
会員になるメリットとしては、①これまでのビジネス経験を中小企業の経営支援に活かすことができる(コンサルティングや企業紹介、講演など、社会貢献の種類はさまざま)、②勉強会やセミナーを通じて、さらなる自己研鑽の機会が豊富にある(新しい分野の勉強もはじめてみては?)、③囲碁やゴルフなどの会員同士の交流もある(これまでの会社生活にはないネットワークが広がる)――の3つを挙げてくれました。
特に②では、有志会員による研究会(例:ヘルスケア研究会、IoT研究会、新素材研究会、エネルギー産業研究会等)もタイムリーに発足し、最新情報を収集・整理して中小企業支援の有効な一助としているとか。
また、「NPOサロン」を開催し、外部講師による講演会等で新たな知識を吸収したり、「トークサロン」や討論会で議論を交わしたりと、会員たちはとかくエネルギッシュに活動しているようです。
なお、前述したA〜Eの5グループでは定例会を毎月開催しており、「会議終了後は神田近辺の居酒屋で懇親会を行うのも楽しみの一つ」と、荻田特別顧問が最後に付け足してくれました。
関心をもったニュー・エルダーの方々、ぜひ、経営支援NPOクラブに参加してみてはいかがですか?
<NPOデータ>
認定特定非営利活動法人経営支援NPOクラブ
事務局:東京都千代田区内神田1-5-13 内神田TKビル6階
TEL 03-5577-6785FAX 03-5577-6786
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バイタリティにあふれ、パワフルに活動する経営支援NPOクラブのレポート、いかがでしたか? 世の中でいきいきと活躍するのに年齢は関係ないと、改めて気づかされたのではないでしょうか。
人は誰かに必要とされたとき、社会の役に立てたときに最も充実感を得て、心の安定が図れられるといわれます。それを証明するように、荻田特別顧問を始め、取材対応してくださった会員の方々の精気に満ちた瞳がとても印象的でした。
リタイア後、悠々自適に暮らせるための諸条件が十分に整っていたとしても、実際にその日が近づくと、「これから何をして過ごそう?」と考え込んでしまう人も多いはずです。
そのようなとき、「人や社会のためになること」をキーワードに“生きがい探し”を始めてみてはいかがですか? たとえ、それがささやかな行為だとしても、きっと心を豊かにし、前向きな気持ちを高めてくれると思います。
なお、荻田特別顧問はNPOクラブの活動について、「今後は単なる中小企業の支援を越え、“地方創生”的な支援が求められてくるのでは」と予想していました。
加速度的に進む少子高齢化や過疎化等を背景に、地方自治体の存在自体が危ぶまれている状況です。課題解決に向け、経産省のほか厚生労働省、農林水産省、国土交通省等との連携も模索するNPOクラブ。本サイトでは引き続き、NPOクラブの取り組みを追っていきます。
さて次回は、視覚障がい者の方々などに映画を楽しむ機会を提供するバリアフリー映画鑑賞推進団体「シティ・ライツ」をご紹介します。