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「吹き戻し」で医療・介護に貢献を


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「吹き戻し」という玩具をご存知ですか?
 口にくわえて息を吹き込むと、ピーッという音とともに袋状の巻紙が伸び、吹くのをやめるとクルクル戻ってくる笛のおもちゃです。お祭りや縁日などでよく見かけますね。誰もが一度は遊んだことがあるのでは?
そんな昔懐かしい吹き戻しを口腔ケア用品「長息生活(ながいきせいかつ)」として開発し、医療・介護現場への導入を図っているのが広島県三次市に本社を置く(株)ルピナス(医療・介護用具レンタル販売、新商品企画開発)さんです。
今回、同社の東京事務所を訪問し、山本博一社長に「長息生活」の開発秘話や、今後の事業構想などをお聞きしました。

  
◆真の健康は「呼吸」と「嚥下」から
 
古くから玩具として親しまれてきた「吹き戻し」。近年、老人医療や介護現場において口腔機能の改善効果が認められ、改めて注目されています。
「吹き戻しを使ったトレーニングは、広島県のモデル事業として県内8カ所の病院・施設で実施されました。呼吸機能に大きな改善効果がみられたと報告されています」
と語るのは、吹き戻しを玩具にとどめず、口腔ケア用品として進化させたルピナスの山本社長。「長息生活」という商品名で、「レベル0〜2」の3段階の負荷を加えた吹き戻しを販売しています。
「レベル1は通常負荷で、日常会話をはっきりした声で話す程度。レベル2は通常より負荷を加え、ロウソクの火を吹き消す程度です。そしてレベル0は、レベル1・2でも吹けない人のために用意した軽い負荷のもので、ティッシュペーパーを1枚吹いて揺らす程度です」
「長息生活」は巻紙部分の袋状部の長さと、それに内蔵するステンレス製針金の本数で負荷を調節しており、レベル1は袋状部の長さが35㎝:針金が1本、レベル2は35㎝:2本、レベル0は25㎝:1本という仕様です。
 
 長息生活3種3  
           ▲白がレベル0、青がレベル2、赤がレベル1。一箱3本入り

 また、吹き口にはくわえやすいシリコン製チューブを装備するなど、玩具とは違う質の高さも特徴。形状記憶の強いステンレス製針金の使用に加え、袋状部の紙の質や重さにもこだわったことで、常に安定した負荷でトレーニングできます。
「加齢に伴って呼吸循環機能が低下するのは、肺を動かす筋肉や、体中に血液を送る心臓のポンプが劣化するため。脳や心臓、筋肉に十分な酸素がめぐらなくなると、認知症などのリスクが高まり、自立した生活が困難になります。酸素摂取量の低下スピードを遅らせるには、適度な有酸素運動が有効。それには、呼吸を整える訓練が重要です」
呼吸の訓練でも、特に“吐くことが大事”と力説する山本社長。呼吸機能が改善すると、安全に嚥下できるだけでなく、会話も楽しみながらスムーズに食事ができるようになるそうです。
「真の健康は“呼吸”と“嚥下”から。呼吸力の衰えから嚥下力が低下し、食事が困難になって誤嚥性肺炎を招くのです。肺炎になってから対処療法をするのではなく、肺炎にならないよう、予め口腔機能を訓練しておくことが大切。そう考えて、口腔機能のトレーニングに使えそうな商材をあれこれ探し、“吹き戻し”に辿り着きました」
単なる玩具にすぎない「吹き戻し」を「口腔ケア用品」へ――。その柔軟なアイデアは、20年に及ぶ医療現場でのビジネスで培った「経験にもとづく勘」によるものでした。
 
 
◆「しんどい」の一言で吹き戻しの可能性を確信
 
医薬品販売会社の営業マンとして、病院や診療所などへ医療用医薬品を販売していた山本社長。キャリアを積む中で感じ始めたのは、「人間が本来持つ免疫力を高めれば、薬の投与を必要としない体づくりができるのではないか」という疑問でした。
そのような思いを抱えつつ、1996年に医薬品卸会社として「ルピナス」を立ち上げ独立。2000年に介護保険制度がスタートすると、介護福祉用具のレンタル販売も手掛け始め、段々とビジネスが介護分野へシフトしていきました。それに従い、「病気にならないよう身体機能を維持するべき」という考えがさらに強まったとか。
そして、医療・介護分野に貢献できる自社製品の開発を意識し始めた時、まるで神の啓示のように“口腔まわりのもの”と、ひらめいたそうです。
「当時、オーラルケア用品があまり市場にないと気づきましてね。営業マン時代の経験や知見が活きました」
ルピナスが世に送り出した最初の口腔ケア用品は、キシリトール20%配合の口腔清掃剤「KIRARAデンタルリンス」。「人の五感を磨きにかける」のが商品コンセプトで、甘くてフルーティーな香りが味覚・嗅覚を刺激する一方、口腔に対して低刺激なことから、高齢者・子ども向けとして現在も好評を博しています。
 
 きらら  
             ▲KIRARAデンタルリンス。味はフルーツミックス、グレープルーツ、
               ブドウなど数種類ある。

 続いて同社が取り組んだのが、口腔機能を改善する訓練器具の開発。
使えそうな商材をいろいろ探したことは前述しましたが、実は吹き戻しも早い段階で頭に浮かんでいたと山本社長は語ります。
しかし、「単なる玩具では医療・介護用品として売れない」と、当初は二の足を踏んだそうです。そのためらいを一掃し、「吹き戻しが使える!」と強く認識させたのは、あるテレビ番組でのタレントの一言でした。
「兵庫県の淡路島にある国内最大の吹き戻しメーカー、『吹き戻しの里』が紹介されましてね。そこで、すごく長い吹き戻しに挑戦したタレントが一言、『しんどい』とこぼしまして。その時、“吹き戻しに負荷をかければリハビリになる”と確信したんです」
翌日、山本社長はさっそく「吹き戻しの里」を訪れ、吹き戻しを医療・介護用として販売したい旨を告げ交渉を開始。同社の了解と協力を得て、まずは玩具の吹き戻しを販売し、口腔ケア用品の開発を視野に様子をみることにしました。
 
 玩具用と3  
              ▲「吹き戻しの里」の吹き戻し(左)と「長息生活」(右)
 
 
◆吹き戻しの効果を実証、広島県のモデル事業へ
 
山本社長が「吹き戻しの里」を訪問して、ルピナスが同社製吹き戻しの販売を開始したのは07年のこと。
 それと並行し、長崎嚥下リハビリテーション研究会の山部一実会長の協力を得て、口腔ケア用品としての吹き戻しの改良にも取り組みました。
吹き戻しを医療・介護用として販売開発するにあたり、山本社長が特にこだわったのは、その効果を示す根拠や臨床結果(エビデンス)。実際に現場で活用してもらうには、やはり説得力のあるデータが必要です。その点で医療機関と協力関係を築けたのは、大きな前進となりました。
「営業マン時代に医療現場を数多く踏み、医療関係者と対等に渡り合えるほど医学・薬学知識を徹底的に学んだからこそ、あのような協力関係が築けたのでしょうね」と、山本社長は述懐します。
山部会長の指導を仰ぎながら吹き戻しの改良を重ね、ついに「レベル1」「レベル2」の商品が誕生、09年より販売を開始しました。
さらにルピナスは、広島県三次市の産学連携事業にも参加。県立広島大学・保健福祉学部の協力の下、吹き戻しの口腔機能改善効果を検証したところ、「呼気持続時間」「発声持続時間」「水飲み速度テスト」などで効果が確認されました。
 
 検証データ1  
 
これにより医療機関も吹き戻しに注目し始め、誤嚥予防に利用する施設が次第に増えていきました。
続いて11年に三次市販路拡大支援事業の助成を受け、全国規模の展示会へ「レベル1」「レベル2」の吹き戻しを出展。認知度が飛躍的に向上し、12年には広島県商工労働局の医工連携推進プロジェクト・チームが、ルピナスを県のモデル事業の協力企業として選抜しました。
そして冒頭で触れた通り、県内8カ所の病院・施設で吹き戻しを使ったトレーニングを実施し、呼吸機能の改善に大きな効果がみられたことから、ルピナスの吹き戻しが「広島県が認める口腔ケア用品」となったのです。
なお、この時の検証で「レベル1」「レベル2」の吹き戻しが吹けない人がいたため、より低負荷の「レベル0」が開発されました。
また、目を見張る素晴らしいデータが出たことで、県の担当者より“脱おもちゃ化”を図るよう助言を受け、ルピナス製吹き戻しを「長息生活」と命名。商標登録を行い、パッケージもデザインし、本格展開に乗り出しました。
 
 
◆認知症の改善にも吹き戻しを役立たせたい
 
現在「長息生活」の販売本数は、医療・介護の両分野を合わせて年間6万本を突破。県のモデル事業に選ばれた当時の3万本から倍増し、さらに販売本数が伸びる勢いです。
病院や介護施設では、リハビリで使う「長息生活」に高齢者のほとんどが抵抗感を示さず、すぐ手に取り、懐かしみながら吹き始めるそうです。
「お年寄りは、自分が知っているもの、使い方がわかるものでなければ関心を持ちません。吹き戻しは昔遊んだことがあるから、心を動かし、抵抗なく使ってもらえるのでしょうね」
最初、それぞれ自由に吹き戻しを吹いてもらい、落ち着いてきたところで機能訓練を開始するのがパターンとか。吹き戻しの親しみやすさが、リハビリに向かう高齢者の姿勢も前向きに変えているようです。

 
 介護施設訓練風景  
               ▲吹き戻しを使った介護施設での訓練風景(写真提供:ルピナス) 

 また、ルピナスは
13年に美容業界からの依頼を受け、OEMで改良型の吹き戻しを開発しました。同商品では、小顔づくりを目的にインナーマッスルを鍛えるべく、袋状部の長さを1m(内蔵針金2本)にするなど負荷を一段と強化。これが女性たちにウケ、販売本数は年間12万本を突破している状況です。
 
 美容用2  
                ▲OEM開発した美容用の吹き戻し。
               1mに及ぶ袋上部を支える葉っぱのような“支え紙が特徴。

 一方、「長息生活」の購入先も医療・介護施設、美容業界から、ボイストレーナーや音楽関係者など想定しなかった方面へ広がりつつあり、今春には広島県が友好提携を結ぶ中国・四川省から注文が来るなど、海外展開の道も開けてきました。
「今、『長息生活』をカラオケ店に並べる計画を進めていましてね。音楽呼吸療法を確立した専門家と理論的な効果を検証中で、音楽に合わせて行う訓練法の解説CDも付録にする考えです」
「四川省の注文を足掛かりに、中国をはじめ東アジアで広まるといいですね(笑)。特に健康への関心が高い台湾に注目しています」
さまざまに膨らむ。それを実現に導くのはやはり、営業マン時代に培ってきた「経験にもとづく勘」と山本社長は改めて力を込めます。
「本当に安心して、楽しみながら使ってくれる商材は、現場の状況を熟知していないと見つけられません。特に高齢者を相手にする場合、日本の伝統工芸品など、慣れ親しんだ商材をどう医療・介護用品として進化させるかが重要なポイントです。その点、吹き戻しは成功しました。今後は認知症の改善にも吹き戻しが役立つことを実証し、日本の医療・介護にさらに貢献していきたいですね」
世の中に何か一つでも足跡を残せたら、会社を経営する者として最高ではないか――と語る山本社長。
 「『長息生活』でちょっと足音が聞こえてきたかな」
 と、はにかみながらも向ける力強い眼差しが、広島県の期待を担う中小企業の躍進を予感させました。


       ◎「長息生活」 トレーニング方法(吹く回数の目安)
イラスト 
<企業データ>
株式会社ルピナス http://www.kaigolupinus.com/
事業内容:医療・介護用具レンタル販売、新商品企画開発
    
本  社:広島県三次市南畑敷町647番地 TEL 0824-62-0384/FAX 0824-62-9664
十日市支店:広島県三次市十日市東3丁目11-14 TEL 0824-65-6300/FAX 0824-62-9664
東  京:東京都中央区月島2-8-12 ASONE月島403号 TEL/FAX 03-6204-2062
  
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「吹き戻し」で日本の医療・介護に貢献しようと意気込むルピナスさんの取り組み、いかがでしたか?
 「人間が本来持つ免疫力を高めれば、薬の投与を必要としない体づくりができる」という山本社長に考えに、大きな希望をもらったエルダーの方々も多いのでは?
吹き戻しは、ぜんそく患者に腹式呼吸を教えるのに役立つとされ、高齢者医療だけでなく、小児科医の学会でも注目されているそうです。まさに子どもからお年寄りまで、あらゆる人に楽しんでもらいながら、健康にも役立つ素敵な玩具と言えますね。日本の伝統工芸品も医療・介護用品として注目する山本社長。ルピナスさんの今後の動向に注目です。

 さて次回は、第一線を離れた企業
OBたちが永年培った知識や経験を活かし、ボランティアで中小企業の経営をお手伝いする「経営支援NPOクラブ」をご紹介します。
 

 
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