アートサロン~割り箸アート
- 2020/02/28
- 10:05
縦横に足をくねらせ、いまにも絡みついてきそうなタコ。本物さながらに独特のまだら模様が浮かぶカレイ。ひげの1本1本まで緻密に再現した躍動感あふれるリュウ――。
これら精巧な作品たちが、捨てればゴミになる“使用済み割り箸”だけで作られているなんて、信じられますか!?
千葉県四街道市で活動する「割り箸アートの会」は、ユニークな技法で完成度の高い割り箸アート作品を数多く生み出し注目を集めています。でも、作品が人を惹きつけるのは、単に技術だけによるのではありません。会員たちの創作に対する強いこだわりも、作品の魅力を一層際立たせているようです。「ユニークな技法」「強いこだわり」とはいったい、どのようなものなのでしょうか?
今回からスタートする『elder art salon(エルダー・アートサロン)』。初回特集を飾るのは、全国で注目を集めつつある地方のシニアサークル、四街道市「割り箸アートの会」です!
<取材協力:四街道市 割り箸アートの会>
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★使い終わった箸がもったいない!
「わーっ、木のお魚がいっぱい!!」
弾むような子どもの声に誘われて、お父さん、お母さんも童心に返ったように目を輝かせながら、水中生物をモチーフにした割り箸アートの数々に見入っています。タコ、カレイ、クロダイ、エイ、カメ……なかには想像上の生き物・リュウの姿も。作品を展示している机には、海を思わせるブルーのクロスがかけられ、会場はさながら「水のない水族館」のようです。
昨年12月10日から15日にかけ、四街道市民ギャラリー(四街道市鹿渡)で市内のシニアサークル「割り箸アートの会」(以下、アートの会)が作品展を開きました。毎年1回、定期的に催される同イベント。楽しみにしているファンは地元以外にも多く、14回目を数えた昨年末は開催6日間で530名ほどが訪れました。
アートの会は20年ほど前に結成され、毎週火曜日の13時から17時、四街道市総合福祉センター(四街道市鹿渡)の工作室で活動しています。会員は現在15名(内女性2名)が在籍し、市内在住者が8割、千葉市など近隣在住者が2割という構成です。ちなみに、みなさんの平均年齢は「70歳ほど」とのことです。
アートの会が手掛ける作品で注目されるのは、割り箸の木質や色の違いによって、魚介類の体の濃淡や模様を表現している点。さまざまに変色した使用済み割り箸を寄木細工のように組み合わせ、ブロック状にして切り口(木口:こぐち)を活かすのが特徴です。割り箸の側面をそのまま使用した作品は散見されますが、両端の木口で形や模様を表現するのは、世界でもおそらく四街道の作品だけでしょう。
このユニークな技法を考案したのは、アートの会を立ち上げた小池正孝さん(85歳)。元四街道市長で、NPO「四街道メダカの会」の設立にも尽力し、代表を務めました。
とにかく「水中の生き物が大好き」という小池さん。その思いが高じて魚介類を自作するようになり、独自の技術を編み出したそうです。また材料についても、環境問題に熱心なことから「身近な素材」「再利用できる廃材」にこだわり、かまぼこ板などいろいろ試したあげく、最終的に割り箸にたどり着きました。理由は「材質の違う木口の束が、カレイのまだら模様のように見えたから」だとか。
10年ほど前、小池さんは脳梗塞を患い、市長職を任期半ばで辞任しました。現在リハビリ中のため創作活動はしていませんが、「材料はすべて廃材を使い、“木口”を出すように教えられている」とアートの会のみなさん。小池さんの独創的な技術とともに、「使い終わった箸がもったいない」という“エコ精神”もしっかり受け継ぎ、メンバーの方々は創作に打ち込んでいます。
★予想を超えた模様が創作意欲をかき立てる
アートの会の作品をみた人は、必ずといっていいほど「どのように作っているの?」と尋ねるそうです。その質問にお答えしましょう!
まず材料の調達から。使用済み割り箸は、主に四街道市総合福祉センターに隣接する四街道市役所の食堂から出たものを届けてもらっています。また、近隣の飲食店や環境関連のNPOの協力を受けているほか、県内にある割り箸工場の「はみだしもの(不良品)」の提供もあるとか。漫画家のやくみつるさんもアートの会の作品のファンで、定期的に段ボール箱いっぱいに使用済み割り箸を送ってくれるそうです。
次に調達した割り箸の洗浄と加工について。洗浄では環境を考慮して中性洗剤は一切使わず、水だけで行います。特に食堂などから出る割り箸は先端が油で汚れているため、十分に洗わないとカビが発生してしまいます。バケツに入れて幾度となく洗浄を繰り返し、油が浮かばなくなるまで1カ月。それをさらに半年ほどかけて乾燥させ、完全に乾き切ったところで、割り箸を寄木細工の手法で貼り合わせます。そして、すっかり固まったら、土台用、肉付け用、尾ビレ用など用途を考え、適当なサイズに切り取って制作を進めていきます。
ちなみに材料は常にストックしているので、半年以上、何も作業ができないことはありません。

★日本人の心がこもる究極のエコアートを世界へ!
ゴミが洗浄され、材料として使えるまでに半年以上。制作を開始してからも、完成まで平均2~3カ月ほどかかるという割り箸アート。気が遠くなるほど根気のいる作業が続きますが、会員のみなさんはサークルに浸透する“エコ精神”と、なにより「創作の喜び」で全然苦にならないとか。それどころか、このように手間暇がかかることで、かえって作品への愛着を強めているようです。
なお、みなさんが手掛ける作品のモチーフは9割が水中生物で、その他が1割(例:車輪が回る車など)とのこと。創始者である小池さんの影響の大きさが窺われます。ちなみにアートの会に入会したばかりの初心者は、まず技術の基本が凝縮さているハマグリやカレイを作ってもらうのが慣例です。作品をよくみてもらい、ベテランメンバーが丁寧に技術を説明し、実演しながら指導するそうです。
お互いにアドバイスし合いながら、和気あいあいと作品づくりに取り組むアートの会のみなさん。「今まさに泳いでいるような、魚の躍動感が出せるように心がけています」「イメージ通りに完成すると嬉しい!」「創作していると生活に“張り”が出てくる」などと、割り箸アートの魅力や醍醐味を口々に熱く語ります。
使い終わった割り箸にもう一度役目を与え、最髙のアート作品へ。年数を重ねるほど木が日に焼けて味わい深いべっ甲色になり、ライトアップすると幻想的な雰囲気を醸し出すとか。作品は冒頭で触れた作品展(※例年は8月頃開催)のほか、四街道市総合福祉センター、JR四街道駅、市の公民館、福祉祭り・産業祭りといった市内のイベントでも定期的に飾られます。
また、メンバーの中には個人的に県立美術館に出展する人や、高齢者施設で展示する人も。高齢者施設では、認知症の進んだお年寄りでさえ精巧な作品に刺激を受け、いつまでもじっと眺めていることが度々あるとのこと。その姿をみると、「自分の作品が人の役に立っている」と感動するそうです。
昨今の環境問題の高まりから、「ECO ART(エコアート)」としてテレビ・新聞などのメディアで取り上げられることもある四街道発の割り箸アート。モノを大切にする日本人の心がこもる究極のエコアートが、一地方から日本全国へ、そして世界へと広く羽ばたき、多くの人たちを魅了していってほしいですね。
<四街道市 割り箸アートの会>
活動日:毎週火曜日午後1時~午後5時
活動場所:四街道市総合福祉センター工作室
活動日:毎週火曜日午後1時~午後5時
活動場所:四街道市総合福祉センター工作室
問合せ先:090-1614-3151(及川)
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