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レポート~“モノ”を届け心通うボランティアを

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 プラネット(惑星)上をゆったり流れる運河のように、おおらかで温かみ溢れるボランティア活動が東京・武蔵野市を中心に広まりつつあります。主導するのは特定非営利活動法人「プラネットカナール」(武蔵野市吉祥寺)。運送や配送の隙間を活用した“スローまとめ配送”で、貧困や恒常的なモノ不足、災害復興などの中で、困難な状況にある子どもたちが必要とするモノを急がず、ゆっくり届けています。
 提唱者は同NPOの鈴木邦明理事長(67歳)。トラックや保管場所、システム・配送サービスなどを協賛企業から無償提供してもらうことで、費用をかけずにプロジェクトを推進、「お金がなくても始められるボランティア活動」のロールモデルとして全国展開も検討中です。
 現在、特に力を入れているのが児童養護施設を巣立つ卒園者への支援。一人暮らし用の家電・家具を必要としなくなった人たちから集め、それを必要とする若者たちに届け贈っています。
 将来、コンテナ船の空き隙間スペースを活用し、世界の子どもたちに学用品などを届ける構想も描く鈴木理事長。プラネットカナールの発足経緯や事業内容、今後の展望などを語っていただきます。
 
 
 
 ◆“より早く”より、“少しでも多く”を
 
「プラネットカナール」の“カナール”は“運河”という意味。つまり、「プラネット上をゆっくり流れるモノを運ぶ運河」をイメージしています。
私たちは運送や保管の隙間を活用することで配送料を節約し、急がずゆっくりと、子どもたちが必要とするモノを“スローまとめ配送”するNPOです。“より早く”ではなく、“少しでも多く”がモットー。だから緊急支援には向きませんが、児童養護施設の卒園者や恒常的にモノが不足している地域の子どもたち、長期間に及ぶ災害復興の中にいる子どもたちへの支援に適しています。
なぜ、このような“モノを運ぶ”ボランティアを始めたのか。それは、私が“モノ”に対するこだわりを持っているからです。
大学進学の際、「世の中はモノでできている」という現実を直視し、それまで抱いていた夢や理想を諦め、将来モノに関係した仕事をしようと工学部を選びました。しかし、大学を出てIBMに就職し、主に携わったのはシステム・情報やコンサルタントの事業。その後、保険会社、コンサルティング会社と勤めましたが、いずれも”モノ”とはほど遠い業務ばかりで、どこかジレンマやコンプレックスを抱えていました。
それで40代後半になった頃から、「これまでの延長線じゃないことをやりたい」という思いが次第に募り、ビジネス以外の世界で社会に貢献できる活動をしようと思ったのです。
 
では、いったい何をするのか。まず、「未来を担う子どもたちの力になりたい」という気持ちが強くありました。
そして、どんな取り組みをするのか検討していたとき、40代前半の頃に体験したアフリカ支援のことを思い出したのです。それはザンビアに古着を送り、現地の人々を支援するものでした。
いらない衣類を段ボール箱2箱ほどに積め、郵便局の船便で現地へ送ったのですが、驚いたことにかかった費用が2万円近く。ただ同然の古着を送るのにです。お金ではなく、モノを送るという選択肢はないのかと、つくづく思いました。
現代のように物流が発達していても、ある場所ではモノがあふれ、ある場所ではモノが全然足りないというギャップが生じている。このような状況がどうにかならないのかと考えていたとき、「急ぐからいけないんだ」と気づきました。
 
今の社会はビジネスに限らず、なんでも急いでいる時代です。情報とお金は瞬時に移動し、モノもグローバルに特急配送されるようになりました。しかし相互依存の世界では、モノが常時無理なく、時間がかかっても、持続的に輸送・配送されるための通り道が必要です。それには「できるだけ早く届ける」のではなく、「一定の期間内に届ける」という配達で十分なのです。
ゆっくりなら、今まで運べなかったモノや、費用面で送るのに躊躇していたモノも、必要としている人や場所に届けることができるかもしれない。急がずに待てば、捨てられている輸送や保管の空きスペースを活用することができるのではないか。どうせ捨てられるエネルギーだから、エコにもつながる――。
このようなことを考えていたとき、ふと「プラネットカナール」という名前が頭に浮かび、そのイメージ(プラネット上をゆっくり流れるモノを運ぶ運河)で子どもたちを応援しようと決めたのです。
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 ◆施設を巣立つ若者の困難を知って
 
活動の方向性が定まってから、物流業や国際コンテナ輸送の勉強に取り組み、海外のハブ港についてもインターネットで調べるなど構想を練っていきました。そして2014(平成26)年の6~7月ぐらいから、小・中・高校時代の友人や大学校友会の同志などと、「プラネットカナール」の設立に向けた準備委員会を立ち上げ、具体的な活動について議論を開始しました。
大学の校友会とは「武蔵野三田会」のことで、私の母校・慶応義塾大学の武蔵野市のOB・OG会です。当時武蔵野三田会では、ボランティアをしたいという要望が校友の方々から寄せられていて、私が温めている構想を話す機会があったのです。それをきっかけに三田会内で「ボランティアの会」が発足し、私がその世話人になりました。現在ボランティアの会のメンバーは16人ほどがおり、40代後半から87歳までの方々が精力的に活動しています。
  武蔵野三田会画像
 準備委員会に話を戻すと、当初から我々には「世界の子どもたちを応援する」という発想があり、インド、アフリカ等にモノを運ぶことを想定して活動内容を検討するなどしていました。例えば、「アフリカのハブ港は東側しかない?」「インドは旧カルカッタかな」とか。でも、アフリカ人に洋服を送ることを考えた場合、サイズが全然違うし、距離も遠い。それで、「やはり文化的にも、距離的にも、対象地域はアジアがいいだろう」――といった具合に、ボランティアの輪郭を整えていったのです。
このような議論を進めていく中で、「国内には支援を必要とする子どもたちはいないのか」という話が出ました。
国内はモノがあふれているので、「我々がこだわるモノのニーズは少ないだろう」という意見が大半でしたが、思い込みのボランティアはしたくなかったので、とりあえずさまざまな施設を尋ね、ヒアリングを開始しました。訪問先は、障がい者施設、児童養護施設、難民を支援するNGOなど。そして調査を進めていくうちに、児童養護施設を卒園する若者たちの困難な実情を知ることになりました。
 
かつて「孤児院」と呼ばれていた児童養護施設。現在、全国に600以上の施設があり、約2万7000人(平成28年10月1日現在 厚生労働省調査)が暮らしています。入所するのは2歳の幼児から18歳の若者まで。昔は保護者のいない孤児を収容し、養護するための施設でしたが、今は虐待、ネグレクト(育児放棄、育児怠慢等)、親が障害者など、入所する子たちの事情はさまざま。近年は在留外国人の子も増えてきました。
しかし、社会的養護を受けられるのは18歳までで、高校卒園後は退所しなければなりません。国から支度金8万円弱と、地方自治体などからも多少支度金が用意されますが、貯えの非常に乏しい状態での自立は、私たちが想像する以上に困難なことです。
ヒアリングした児童養護施設では、社会へ巣立つ卒園者の負担を少しでも軽減しようと、一人暮らし用の中古家具・家電を集めて卒園する日に贈っているとのこと。でも、その引き取りや保管に困っていて、「予め家電や家具を収集し、保管してもらって、それを卒園に合わせて寄贈してくれたら大変有難い」と、施設の理事長が話されました。
その日の帰り道、「国内は、児童養護施設を巣立つ18歳の若者たちに家電・家具を贈る活動一本に絞ろう」と決め、さっそく仲間たちに提案。みんな賛同してくれて、ボランティアの名称も“巣立ち”をローマ字で書いた「SUDACHIプロジェクト」に決定しました。
こうしてプラネットカナールは、SUDACHIプロジェクト」「世界の子どもたち応援プロジェクト」「配送作業支援プロジェクト」の3つを推進していくことになったのです。
 
 
 ◆NPO設立、まず“SUDACHI”が最優先!
 
2015(平成27)年2月26日、特定非営利活動法人(NPO法人)の資格を取得し、プラネットカナールが誕生しました。
スタート当初の理事・監事といった中心メンバーは7人。現在は1人増えて8人になり、そのうち2人が武蔵野三田会「ボランティアの会」のメンバーです。ボランティアの会はプラネットカナールの立ち上げのときから、とても力になってくれています。
定款で定めるプラネットカナールの事業内容は前述の通り、①「SUDACHI「世界の子どもたち応援プロジェクト」③「配送作業支援プロジェクト」、の3つです。
SUDACHIプロジェクト」は先に触れた通り、一人暮らしで必要な中古家電・家具を集め、保管し、児童養護施設を巣立つ若者に届け贈る活動です。実はプラネットカナールでは、現在このプロジェクトを最優先に進めていて、①②のプロジェクトは手つかず状態になっています。
②「世界の子どもたち応援プロジェクト」は、海外の恒常的にモノが不足している地域の子どもたちや、長期間に及ぶ災害復興の中にいる子どもたちに学用品などを届けるプロジェクトです。輸送にお金がかかり、手続きも難しいので、海外にモノを贈るボランティアを諦めている方も多いのではないでしょうか。本プロジェクトでは、協賛企業にコンテナの輸送スペースや保管スペースをご提供いただき、急がず空きスペースを待って、まとめて輸送する構想を練っています。
そして③「配送作業支援プロジェクト」は、企業やNGO、NPO、団体などが取り組む社会貢献活動について、我々がその趣旨に賛同した場合、配送準備作業等を支援するものです。モノを運ぶための仕分けや梱包などを登録会員がお手伝いします。
  
我々が注力する「SUDACHIプロジェクト」の概要や、活動の大まかな流れを説明しましょう。
同プロジェクトでは地域の団体(武蔵野三田会「ボランティアの会」等)や企業(横河電機、リベスト、首都圏物流、セールスフォースドットコム、シグマクシス、プリズミック等)、慈善団体(ロータリークラブ等)、大学生(東京女子大等)、高校生(アメリカンスクール・イン・ジャパン等)などと連携して、不要になった一人暮らし用家電・家具を集めて保管し届けています。セールスフォースドットコムさんにはシステムを提供いただき、現在システム構築を全面的に支援いただいています。昨年から大塚商会さんには配送途中で商品にはならなくなったが問題のない新品の品々を定期的に寄贈いただいています。
現在支援している施設は、東京都の15施設と千葉県の1施設です。
家電・家具のニーズは、最初は、施設の卒園予定者に事前アンケートをとり調査ましたが、その後は毎年希望を見ながら見直しています。だいたい集めるのは、家電では冷蔵庫・洗濯機・テレビ・電子レンジ・炊飯器・掃除機の「6家電」のほか、電気ケトルやノートパソコン、扇風機、アイロン、ドライヤー、DVDプレーヤーなど。「6家電」とは我々の造語で、一人暮らしで必須と考えている家電です。
一方、家具については、コタツや座卓、カラーボックス、テレビ台、ハンガーラック、プラスティックケース、プラスティックチェスト、小型整理棚、姿見等々。ほかにも、鍋やフライパン、目覚まし時計、キャリーバック、未使用のタオル・タオルケット・寝具、ギフトカタログなどを集めています。
 
 6家電
             ▲6家電(冷蔵庫、電子レンジ、洗濯機、テレビ、炊飯器、掃除機)
 
寄贈してくださる方々は、一人暮らしをしていて大学を卒園する人、実家に戻る人、海外に留学・転勤する人、結婚する人、単身赴任が終了する人、リフォーム・増改築・新築をする人、身内・知人のどなたかが亡くなった人――などです。
集めた家電・家具は品質状態を確認して、寄贈するまで保管します。そして年末にクリーニングし、2月に協賛企業提供の全面的支援をいただき、施設に一括配送しています。
「SUDACHIプロジェクト」の全体イメージは下図の通りです。
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 ◆“SUDACHI”推進上のリスクは?
 
「SUDACHIプロジェクト」では家電・家具の引き取りを年中行っていますが、集めたものを支援施設へ届ける2月中はお断りし、「3月まで待ってください」とお願いしています。なぜ2月中に届けるかというと、3月になると引っ越しシーズンに入り道も混雑し、年度末で物流も増え協賛企業の運送会社が繁忙期に入るからです。
現在、物流面でお世話になっているのは、東日本を中心に運送業を展開する「首都圏物流」(本社:板橋区)。家電・家具を施設に届ける際、2トントラックで配送してもらっています。
当日は届け先の地域を管轄する配送センターのセンター長とドライバーさんの二人で、ボランティアが配送準備した家電・家具を保管場所から運んでくれます。そして施設に到着し、荷物を下ろしたら、すぐに贈呈式を実施。ボランティアの会(武蔵野三田会)やロータリークラブなど企業や団体会員と個人会員が施設に駆けつけ、卒園者にお祝いのメッセージや贈呈品の目録を贈っています。
ちなみに、荷物を届けていただく首都圏物流のセンター長にもお祝いのメッセージ、ドライバーさんにも目録贈呈をお願いしています。――こんな流れで進めています。
運送業者に2トントラックでモノを運んでもらう場合、増して、2人で丸一日となると、かなりの配送料となるところ、今年は、十数施設への配送を首都圏物流さんは無償で協力していただいています。本当に有り難いです。
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       ▲贈呈式の様子。 

 「SUDACHIプロジェクト」の年間スケジュールをざっくり申しますと、例年4月から活動を開始。6月ぐらいまで、支援先の施設に、その年の報告をし、贈呈品に問題なかったか、改善の余地や新らたな要望はないか確認します。また、翌年の卒園者数を確認。新しい支援候補の施設の場合は、活動紹介から贈呈までのながれ、注意点などをご説明して、支援を開始します。
家電・家具の引き取りは2月を除く年中行っており、ある程度集まったらカタログ写真を撮ってサイズを測り、型番を記録して台帳を作成。それにもとづいてカタログを制作し、クリスマスの時期に卒園予定者に届けています。なお、6家電については11月末~12月初旬に申し込んでもらい抽選で誰に何を贈呈するか決め、結果はカタログ送付時に伝えています。
12月に入るとボランティアが保管場所に集まり、贈呈する家電・家具をクリーニングし、年明け1月にカタログの申し込み(6家電以外)は希望する品がバッティングした場合は抽選で決め、その結果にもとづいて贈呈品を特定、贈呈する卒園生のラベルを貼り、施設別配送順に配置します。そして2月中に各施設へ届け、贈呈式を実施。3月は1年間の活動を総括し、月末までに東京都他へ報告する――というのが流れです。
 
「SUDACHIプロジェクト」を推進する上でのリスク管理については、「人身の安全」「個人情報の保護」「保管場所の確保」の3つを重要事項に定めています。
「人身の安全」では、引き取りに行く際のボランティアによるトラック等の運転が課題となっています。慣れない運転で事故でも起こしたら、どんなにいいボランティアをしていても、元も子もありません。なので、引き取りの際は何かあったら迅速に対応できるよう、二人一組のボランティアで行動してもらっています。
ちなみに最近、バンなどの自家用車引取りできるボランティが増えてきました。引き取る品の単位が細かすぎて、ドライバーが分散しなければいけないこともありますので、大変喜ばしい傾向だと思っています。トラック運転をお願いできるボランティアは相変わらず不足しています。
ボランティア参加者は全員ボランティア保険に加入し、運転はレンタカーの場合はフルに保険をかけ、自家用車の場合は保険対象の人しか運転しないようにしています。
「個人情報の保護」の重要性については、いうまでもありません。活動に関する情報はネット等を通じて発信していますが、個人情報は可能な限りオフラインで情報隔離するなどしています。今後は、セキュリティ管理がしっかりしているセールスフォースドットコムのシステムに会員管理も移行し、適切に管理していきます。卒園生の本名は贈呈式当日のみ使用し、ほかはイニシャルのみで管理、卒園生のボカシ無し顔写真にアクセスできる人は3人に限定しています。
「保管場所の確保」も、プロジェクトのオペレーションに多大な影響を与えるのでかなり切実な問題です。
現在保管場所は、武蔵野・杉並を中心に不動産業を展開する「リベスト」(本社:武蔵野市)に空き家一棟とアパート5部屋(1~2DK)をお借りしているほか、アメリカンスクールの調布市にある倉庫の一区画、武蔵野三田会の方のマンションの1部屋(2DK)、それに会員が保有する千葉の一軒家や世田谷区のアパート1部屋(1DK)などがあります。いずれも無償で、何かあったらすぐに退去する契約を結んでいるため、保管場所がなくなるリスクは常にあります。
遠くまで探せばスペースはありますが、調布や府中ぐらいまででないと、通常の活動に支障をきたします。ですから、保管場所の安定確保は喫緊の課題です。土地を安く借りて物置を買い、そこに継続的に家電・家具を保管できないかなど、今、いろいろ検討中です。

 ◎「SUDACHIプロジェクト」の流れ 
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        ▲家電・家具の引き取り。

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        ▲引き取った家電・家具の保管。
 
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       ▲家電・家具のクリーニング。

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       ▲家電・家具の配送、卒園生のもとへ。 

 ◆一人ひとりの思いがカナールの推進力
 
プラネットカナールの活動について、我々は無料モデルで推進する方針を掲げています。もちろん、家電・家具を引き取りに行く際の車のガソリン代や高速代、書類等の印刷代など諸々の費用は生じますが、会費・寄付等による年間80万円ほどの予算で賄っています。
なぜ、お金をかけないことにこだわるのか? それはプラネットカナールの取り組みを、「お金がなくても始められるボランティア活動」のロールモデルとして全国展開する構想を持つからです。
例えば、「SUDACHIプロジェクト」では現在16施設を応援していますが、児童養護施設は全国に600ほどあり、都内には55を数えます。そうした状況を鑑みると、16施設はごくわずかです。しかし、もっと活動範囲を広げ、それこそ北海道の施設までモノを送るのは現実的に難しい。今年12施設の35人を応援しましたが、一団体のオペレーションはこれが限界とみています。
では、今後「SUDACHIプロジェクト」を広めていくには、どうしたらいいか? それは我々のマネをしてくれる人たちを、各地で増やしていくことだと考えています。つまり、“仲間”を増やすということ。別にプラネットカナールに属さなくてもいい。地域のコミュニティーなどで、我々と同じ活動をしてくれたら嬉しいです。そのためにノウハウを提供する用意もあります。
 
しかし、そうはいっても共通の目標や判断基準がないと活動にブレが生じ、組織的に動くのは不可能です。そこでプラネットカナールでは、個々のボランティアが各々の現場で独自に判断できるよう、「5sという運営指針を定めています。具体的には「slowを選ぶ」「shareしあう」「smileの瞬間」「simpleに運営」「sustainしていく」の5つ。それぞれ説明すると――。
slowを選ぶ」…「slow(ゆっくり)」だと、今まで見えなかったものが見えてきます。できる限り早く届けるのではなく、一定の期間内に届けるという配達で十分です。必要な特急でなく、急がないモノには少しずつゆっくり運び届ける鈍行も必要です。ゆっくりの配達は、低炭素・低価格・長続きにつながります。ゆっくりなら、急がないけれど、必要とされているモノをしっかり子どもたちのところへ運び、喜んでもらえます。
shareしあう」…モノ運びの大変さをシェアしよう(分かち合おう)ということ。先に触れた事業の一つ➂「配送作業支援プロジェクト」は、まさにこの考えに基づいています。我々の活動は一組織で閉じると限られるので、配送作業のノウハウ提供等を通じて多くの人とつながり、さまざまな社会問題の解決を導く糸口を探っていきます。保管場所やトラックの空いているところもシェアさせていただき、活動しています。
smileの瞬間」…微笑みに変わる瞬間(Moment of Smile)は、我々がボランティアを行う理由のすべてです。感謝の言葉なんかいりません。smileが自然で、一番素直な気持ちの現れです。困難な状況にいてsmileに慣れていない子でも、smileに変わる一瞬はきっとあるはず。その瞬間のために、我々は頑張っています。
なお「SUDACHIプロジェクト」では、若者たちが贈呈品を受け取ったときの笑顔をカメラで撮影し、写真をプロジェクト限定のサイトのアルバムにアップしています。それをアルバム単位で施設(卒園生)や会員(法人・団体・個人)とシェアしており、役に立ったという充実感や、活動への新たな意欲の醸成につなげています(施設向け以外は卒園生の顔には必ずボカシを入れています)
simpleに運営」…企業経営と同じようなことはできません。運営と報告の“要”となる情報をきちんと管理し、simple(簡素)で適度なサービスを心がけています。間接費を最小限にし、現場を重視し、常に学習し、複雑にしない工夫をし続けていきます。simpleだと、意外に大事なことが見えてきます。
sustainしていく……未来を担う子供たちのために、この活動をsustain(持続)ができれば、微笑み溢れるプラネットになると考えています。

「SUDACHIプロジェクト」では支援を受ける卒園者以外にも、寄贈してくださる方々、ボランティアを行う会員たち、みんなが「有難う」を言います。寄贈者は廃棄料も送料もかからず、まだ使えるものを捨てないで済む。まして、若い人のために有効利用されるのなら、なおさら嬉しいと喜びます。その結果、お金に換算したら高価な品々を贈呈することができます。ボランティアの会員も「いい汗かいて作業が楽しめた」「人と人とのつながりや支援の輪が広がった」と目を輝かせ、そして「なによりも若者たちの笑顔を見られて良かった」「有難う」と声を弾ませます。
卒園者、寄贈者、会員と三者三様ですが、同じプラネットの住人としてプロジェクトを通じ、ゆっくりした時間の流れの中で境遇や立場を超え、“今を一緒にいる”充実感を共有している。そこには「自分のため」とか、「他人のため」という気持ちはありません。このようにみんなが「有難う」と言い合える三角関係のある活動は、お金を贈呈する活動よりもずっと、持続が容易だと私は考えています。
 
実は最近、手つかず状態だった「世界の子どもたち応援プロジェクト」で新たな動きがありました。国際物流業務に携わっていた大手総合商社の出身者が会員になったのです。その知見や経験、ノウハウがシェアでき、大手海運会社とのコネクションも構築されつつあります。我々が発足当初から計画する同プロジェクトも、ようやくスタートラインに立てそうです。しっかりプランを練り、子どもたちのsmileの瞬間を少しでも多く増やしていきたいですね。
 
プラネットカナールでは、ボランティアに取り組む会員を「プラネットデュウ」と呼んでいます。純粋でさわやかな“しずくDewという意味です。
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 モノを届ける運河の流れも一滴のしずくから。一人ひとりの温かな思いがカナール(運河)の推進力です。子どもたちの笑顔の溢れるプラネットを、モノがバランスよく行き渡るプラネットをイメージしながら、これからもゆっくり、着実に活動していきます。
 
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毎年、児童養護施設から巣立つ若者は全国で約2000人、1施設あたり平均3.5人を数えます。しかし、貯えが非常に乏しく、援助してくれる親などもいないため、お金のかかる“住”の支度は彼ら、彼女らにとって切実な問題です。そのような若者たちに家電・家具を贈ることで経済的援助につなげているプラネットカナール。「SUDACHIプロジェクト」は広く世間の共感を呼んでおり、本文で触れた以外にも多くの企業や団体、学校等が協力しています
学生ボランティアについては現在、東京女子大とアメリカンスクールが熱心に取り組んでいますが、鈴木理事長は「学生には、モノを届けるボランティアを通じて、何かを知り、困難な状況にある若者が巣立つ姿を見て何かを感じとってほしい。そして、いろんなことを考えてほしい」とのこと。
アメリカンスクールの生徒たちが“SUDACHI”に取り組むことについて、「高校生が高校生を支援するなんておかしいのでは?」といった意見もあるそうですが、「そういうことも、やってみないとわからない」と鈴木理事長は述べます。実際アメリカンスクールの生徒たちは「今まで当たり前だと思っていたことが、実は当たり前ではない」ことに気づくなど、さまざまなことを学んでいるとか。同校の校長先生も生徒たちの成長ぶりをみて、“SUDACHI”に深く賛同しているようです。
プラネットカナールでは毎年秋、施設出身者の講演会を開催しており、地域の人々はじめ、多くの人が「児童養護施設」「児童養護施設18歳の巣立ちの大変さ」「SUDACHIプロジェクト」について知る機会になっています。アメリカンスクールも、この講演会をきっかけに関心を持ちました。今年は10月13日日曜午後に武蔵境スイングホールにて開かれる予定です。
ゆっくりと、着実に周知されつつあるプラネットカナール。会員も少しずつ増えていて、認定NPOを目指しているそうです。発足当初から計画を練る「世界の子どもたち応援プロジェクト」始動への期待も高まり、今後の動向にますます関心が高まります。
 
「“モノ運び”で心通うボランティアを」おわり
 
 
<特定非営利活動法人プラネットカナール>
所在地:東京都武蔵野市吉祥寺1丁目24-14
TEL050-3772-2449
ホームページ:http://www.planetcanal.org
(ホームページ問い合わせ:http://www.planetcanal.org/contact.html
SUDACHIホームページ:http://www.planetcanal.org/sudachi.html 

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