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レポート~女性音楽家の活躍を企業OBが支援!

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「生演奏」と聞いて、馴染みがなかったり、ちょっと敷居が高いと感じる人も多いのでは?
 そんなイメージを変革しようと奮闘する女性起業家がいます。エル・マジェスタ代表取締役の阿部志織さん。同社が運営し、自らもバイオリニストで活躍する和奏女子楽団「WOMEN ORCHESTRA(ウーマンオーケストラ)」は、「世界一の感動をあなたに」をコンセプトに「会いに来るオーケストラ」として活躍中です。
演奏先は企業の創立記念行事やホテル・商業施設でのイベント、ホームパーティー、誕生日・プロポーズ・還暦祝いのサプライズなどさまざま。ソロやデュオから大編成まで、クラシックから和洋楽器のコラボレーションまで、利用者の要望に応じて柔軟に対応し、その日、その時にしか味わうことのできない、世界に一つだけの「感動」を届けています。今年2月には、念願だった自主企画・演出による公演も実現しました。
そんな女性だけの楽団を率いる阿部さんの究極の目標は、「女性音楽家が結婚・出産しても、音楽活動が続けられる仕組みを創る」こと。この理念に共感し、本サイトでお馴染みの「経営支援NPOクラブ」がウーマンオーケストラの活動をサポートしています。
今回は企業OBたちイチオシの女性音楽家グループと、若手女性起業家をレポートします。
 
 
 
 ◆女性音楽家がオーダーメイドの生演奏を宅配
 
 華麗にステージを彩る和装姿の女性音楽家たち。繊細で気品あふれる旋律が会場を包み、訪れた老若男女を魅了しています。「世界一の感動をあなたに」をコンセプトに演奏活動をする和奏女子楽団「WOMEN ORCHESTRA(以下ウーマンオーケストラ)」。今年2月20日、港区赤坂のサントリーホール「ブルーローズ」(小ホール)で自主企画・演出による公演を開催し、約300名が来場しました。
 当日演奏したのはポップス風にアレンジした日本の童謡と、国内最古の女性が主人公の物語、「竹取物語」を題材にしたオリジナル曲。ゲスト出演のダンサーとのコラボレーションで、美しいメロディーが幻想空間を紡ぎ、観客を「かぐや姫」の世界へ深く誘いました。
「実はこの企画、10年ぐらい頭の中にあったんです」
と語るのは、楽団を運営するエル・マジェスタ代表の阿部志織さん。今年1月、ウーマンオーケストラ初となるオリジナル曲「組曲『KAGUYA』〜竹取物語〜」(作編曲:猿楽)のCDが制作され、それとタイアップする形で公演を実現させました。当日ステージに立ったのは、その収録に参加したメンバー12名です。
「女性音楽家が活躍できる場を創ろうと会社を立ち上げ、ウーマンオーケストラが生まれました。少しずつではありますけど、夢がまた一歩、前進したかなと思っています」
女性音楽家約100名が登録するエル・マジェスタ(東京都港区)。「会いに来るオーケストラ」と銘打ち、音楽家たちを企業の周年行事やホテルのパーティー、商業施設のイベントなどへ派遣、生演奏の魅力を届けています。従来は企業向けサービスが中心でしたが、最近はレストランや個人向けも開始しました。
演奏する曲はクラシックから映画音楽、ポップス、演歌、童謡などジャンルを問わず。楽器編成もバイオリン・ビオラ・チェロの弦楽器、フルート・オーボエ・ホルン・サックスの管楽器、ピアノ、打楽器に加え、琴・三味線・尺八といった和楽器奏者がいるのも強みです。
「お客様の年齢層やイベントの雰囲気に合わせて、しっとりした曲から楽しい曲まで演奏します。和楽器でビートルズを弾き、海外のお客さまに喜んでいただいたこともあるんですよ(笑)」
ほかに演奏人数や楽器、衣裳なども要望に応じ、「オーダーメイドの生演奏を宅配する」のがウーマンオーケストラの特徴と阿部さん。音楽家一人あたりの派遣料は基本5万円+交通費と相応の値段ですが、利用者のリピート率は高く、ファンを着実に増やしています。
 
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   ▲2月20日の公演風景(於:サントリーホール「ブルーローズ」)


 ◆路上ライブで「会いに来るバイオリニスト」に
 
阿部さんが生演奏の魅力を多くの人に届けたいと思ったのは、高校時代に挑戦したバイオリンの路上ライブがきっかけです。
「夏休みに同じオーケストラの友人とユニットを組み、地元の駅前で行いました。演奏したのはクラシックではなくポップス。そうしたら、『制服を着た女子高生がバイオリンでポップスを弾く』って注目されたんです。駅前にいっぱい人が集まって、みなさんの反応もステージ上では決して味わえないものでした」
このときの感動が原体験になったと語る阿部さん。その後、地域の夏祭りやクリスマスイベントに声がかかるなど活動が増え、段々と「会いに来るバイオリニスト」になっていったそうです。
そんな阿部さんがバイオリンを始めたのは、バイオリニストとしては比較的遅い10歳のとき。転校した小学校に全国レベルのオーケストラ部があり、親の勧めで入部してからです。
それからというもの中学時代まで、朝晩の練習はもちろん、土日も練習する“バイオリン漬け”の日々。特に中学生のときは小学校と同じく名門オーケストラ部に所属し、ほかにも県のジュニアオーケストラに入団したことから、ほとんど休みなしで猛練習に明け暮れました。
そうした過酷な生活を送った反動から、高校はあえてオーケストラ部のない学校に進学。ジュニアオーケストラは継続するものの、部活は運動部を選びます。でも、運動部は1年しか続きませんでした。
「やはりジュニアオーケストラとの両立に無理が出てきて……。だけど音楽ばかりの毎日だったから、スポーツを体験してみて、音楽の楽しさに改めて気づけました」(阿部さん)
そして、高校2年生から軽音楽部に入部し、ロックバンドを組んでドラムを担当。クラシック以外の音楽に触れ、バイオリンで別ジャンルの曲を演奏したいという欲求が高まります。友人と路上ライブを決行したのは、まさにそのような時期でした。
高校時代のバンド活動は、ほかのロックグループのメンバーとの交流も生み、バンド演奏にバイオリンとしてサポートに加わるなど、現在につながる柔軟な独自の演奏スタイルを築き上げていきます。 

 
 
 ◆柔軟な思考と行動力で難局を打開、そして起業!
 
実は阿部さんには、小学生の頃から抱いてきた夢がありました。それはアナウンサーになること。その目標を叶えるため、音大ではなく、語学力が高められる大学へ進みました。
そして、アナウンサーを目指して勉強に励む一方、地域限定FM局のパーソナリティーやイベントの司会、テレビ番組のエキストラなど、さまざまなアルバイトを経験します。
しかし、就職活動で受けたテレビ局はすべて不採用となり、大学在学中からフリーの道を模索することに。就活後、自らイベント会社に出向き、司会やパーソナリティーのアルバイト経験をアピールするなど営業活動を展開しました。
「でも、司会の仕事はなかなかもらえなくて……。一方で履歴書の特技欄に書いた『バイオリン』が注目され、イベントでの演奏のお仕事をいただく機会が多かったんです。そうしたこともあって、徐々に音楽の道に戻っていきました」
再びバイオリンと本格的に向き合うことになった阿部さん。もっとも、大学2年までジュニアオーケストラで活動し、路上ライブをきっかけとした演奏の仕事も時折していたので、ブランクはありませんでした。音楽知識が豊富なうえ、会場を湧かせるトーク力も持ち合わせていることから、仕事のオファーも着実に増加。演奏者として出演しながら、司会もこなすイベントやコンサートも度々あったそうです。
このように順調な滑り出しをみせたフリーランス生活でしたが、東日本大震災が起きて状況が一変しました。世の中が自粛ムードになり、演奏や司会の仕事がなくなってしまったのです。
でも、埋まっていたスケジュールが白紙になって途方に暮れていたとき、家でゴロゴロする父親の姿をみて、阿部さんはある仕事を思いつきます。それは、中高年男性向けのバイオリン教室を開くこと。
「父親世代の方々は、若い頃、バンドを組むなど音楽活動をしていた人が結構多いんですよ。そうした人たちが定年になったら、再び音楽をやりたくなるんじゃないかって。バイオリンなら、私でも教えることができると思ったんです」
そして、震災から2カ月後の2011年5月、東京・銀座で『―かっこいいオヤジになる為のバイオリン教室― GINZA EL MAJESTA』をスタート。10回のレッスンで希望の曲が弾けるようになるプログラムは、「会社の宴会やホームパーティー、結婚記念日などで、かっこよくバイオリンを弾きたい」「好きな曲を弾けるようになりたい」といった大人の男性の欲求をくすぐり、教室は大繁盛します。
それに伴って、バイオリン演奏の仕事も増えていった阿部さん。ダブルブッキング、トリプルブッキングも度々起きたため、音大卒の友人たちに代役を頼むようになりました。そのことがきっかけで、活躍の場が少なく、仕事に困っている音楽家の厳しい現実を知ります。
「特に女性音楽家は結婚・出産で仕事ができない時期があるため、ほんの数年でやめてしまう人が多くいます。また、そうした空白期間が原因で、プロのオーケストラに採用されるのも男性の方が有利です。みんな幼い頃から一生懸命練習してきたのに、女性だけ思うように才能が発揮できないなんて悲しいですよね」
そこで阿部さんは、女性音楽家が結婚・出産しても活躍できる場を創ろうと「ウーマンオーケストラ」を結成。その運営会社として15年11月に「エル・マジェスタ」を立ち上げました。 
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 ◆企業OBと連携して「生演奏あふれるNIPPON」を
 
女性音楽家の雇用創出を目的に誕生したウーマンオーケストラはたちまち注目され、エル・マジェスタは設立から半年後の16年7月、日本最大の女性起業家団体「エメラルド倶楽部」(大樹生命<旧三井生命>支援)のビジネスコンテストで優秀賞を受賞します。
そして、特典として同社は経営支援NPOクラブ(以下NPOクラブ)のサポートを受けることになりました。
第一線を離れた企業OBが、ボランティア精神で中小・地方企業の経営を支援するNPOクラブ。従来は「ものづくり」を行う企業の経営支援が中心で、女性起業家や文化・芸術分野の支援は初めての挑戦です。そこで同NPOの若手、井料敏和さんがその大任に抜擢されました。
 井料さんは森ビル出身で、NPOクラブでは広報を担当しています。
 
井料さん写真
 さっそく、NPOクラブの会員たちにエル・マジェスタのプレゼンテーションを実施し、生演奏の魅力を感じてもらった井料さん。周囲の理解と協力を取り付け、同社への支援を本格的に開始しました。その具体的な支援内容を聞くと――。
「半年で企業3社を紹介するものです。まず、森ビルのイベント担当者に阿部さんを紹介し、森ビルの虎ノ門ヒルズでロビーコンサートを一定期間(16年10~12月、毎週木曜日夕)開催する機会を提供しました。最初の第1回目は20~30人ほどのお客様でしたが、12月の最終回では150人以上のお客様で溢れかえりました。その間にもたまたま見てくださったテナントさんからもお声がけいただき、後楽園ドームホテルでのWBC(ベースボール)の前夜祭にも出演するなど繋がりました。ほかにもホテル、レストラン、不動産会社などにも数多く紹介しましたが、阿部さんの情熱と魅力で仕事も入り、同社の業績向上に貢献しました」
一方、阿部さんはNPOクラブから受けた支援について――。
「私の力では到底お会いするこのできない大手企業の方々をご紹介いただいて、プレゼンの場を設けてくださいました。しかも、高い確率で仕事につながるので本当に驚きました。みなさんがこれまで築かれてきた人脈力、人間力にただただ圧倒されています」
半年間の支援が終了した後も、エル・マジェスタは改めてNPOクラブと一般支援契約(有料)を結び、良好な協力関係を構築しています。

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   ▲2月20日 公演時のリハーサル風景
この4月からウーマンオーケストラの新サービス『ポケオケ(ポケットオーケストラ)pokeoke.comがスタートし、ますます波に乗るエル・マジェスタ。今後の活動について阿部さんは、「またCDを出して、自主公演を開催したいですね。今度も日本の情緒的な雰囲気を表現したいです。もちろん、女性が主人公の物語を取り上げます(笑)。それと、『GINZA EL MAJESTA』をもっとアピールしていきたい。リタイアした男性の方々に、バイオリン教室を新しいコミュニティの場として活用していただけたら嬉しいです」とのこと。
そんな彼女に対して井料さんは、「阿部さんの企業理念は非常にしっかりしている。彼女には演奏者以外にも、プロモーターやマネージャーとしての活躍を期待しています。NPOクラブは企業とのつながりが大きいから、今後も彼女が望む限り、企業の周年行事やビルのオープニング・セレモニー、福利厚生面でのイベントなど、さまざまな機会を紹介していく考えです」と、力強いエールを送ります。
女性音楽家が活躍することで、多くの人に「世界一の感動」を味わってもらい、最終的に「生演奏あふれるNIIPONを創造したい」と夢を膨らませる阿部さん。経験豊富な企業OBたちの強力なサポートも得て、その実現に向け力強く邁進中です。
 
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今回いきなり若い女性たちが登場し、「確かここは、エルダー(シニア)の活躍を紹介するサイトでは?」と驚いた人も多かったのではないでしょうか。本サイトでお馴染みのNPOクラブで広報を担当されている井料さんから、「かっこいいオヤジになるためのバイオリン教室をやっている素敵な演奏家の女性がいる」との連絡をいただき、これからのシニアの方々にも生演奏を身近に感じてほしいということで、今回の特集につながりました。
女性音楽家が活躍できる場を創ろうと奔走している阿部さん。音楽家だけあって感性が鋭く、思考も柔軟で、物事に対して的確に判断をくだせる聡明な人でした。またバイタリティーにもあふれ、自分たちの活動を広く世間に知らしめようとミス・ワールド2014に出場し、ファイナリストに選ばれた経歴を持っています。
そんな阿部さんが理想に描くのは、ヨーロッパのように音楽家が街の至るところにいて、ちょっと歩けば生演奏が聴こえてくる風景とか。ウーマンオーケストラの活躍で、ぜひ日本にも、そのような音楽と気軽に触れ合える環境を創ってもらいたいですね。
なお、NPOクラブでは昨年4月に「起業家支援チーム」が新たに発足しました。今後、性別、年齢にかかわらずサポートする方針を打ち出しています。第2、第3の「阿部さん」の登場が楽しみです!



「女性音楽家の活躍を企業OBが支援!」おわり/次回「エルダー・レポート」は
児童養護施設から巣立つ若者を支援するNPO「プラネットカナール」を紹介します)
  
 
<株式会社エル・マジェスタ>
 所在地:東京都港区西麻布4‐4‐3
  TEL03-6427-9542
  e-Mailshiori@el-majesta.com
 
 
 <認定特定非営利活動法人 経営支援NPOクラブ>
 事務局:東京都千代田区内神田1-5-13 内神田TKビル6階
  TEL03-5577-6785FAX03-5577-6786
  http://www.ka-npo.com/
 
 

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