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シニアの知力・活力を社会に活かす!

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 昨年11月、日本最大級の科学と社会をつなぐオープンフォーラム、「サイエンスアゴラ2018」(科学技術振興機構主催)が東京・お台場で開催されました。
 人工知能(AI)やゲノム編集、生物多様性など、科学に関する最新の話題を幅広く取り上げ、社会における科学技術のあり方を学問分野、立場、世代などを越えてあらゆる人が対話し、ともに考える同フォーラム。次世代を担う若手研究者や大学生、中高生らによるブース、セッション、ワークショップなどが例年イベントを盛り上げます。
 そうした若い熱気に包まれる会場で、常に来場者が訪れる活気に満ちたシニアたちのブースが異彩を放っていました。出展者は認定特定非営利活動法人「経営支援NPOクラブ」。第一線を離れた企業OBたちがボランティア精神で、中小・地方企業の経営を支援するNPO団体です。「科学」がテーマのイベントでいったい、どのような内容のブースを出展したのでしょうか?
 本サイト2回目の登場! 経営支援NPOクラブのサイエンスアゴラにおける次世代若者育成支援をレポートします。
 

 
 ◆「サイエンスアゴラ」をご存知ですか?
 
 みなさんは「サイエンスアゴラ」science agoraをご存知ですか? アゴラ(agora)とは、古代ギリシャ語で「広場」の意味。つまり、サイエンスアゴラは「科学と社会をつなぐ広場となることを標榜するイベントです。文部科学省所管の科学技術振興機構(JST)の主催により、毎年11月に東京のお台場地域で開催されています。
2006年の初開催以来、時代の変化に対応しながら、「科学」と「社会」の関係をより深めていくことを目的に発展してきた同フォーラム。現在はあらゆる人たち(市民、研究者・科学者、メディア、産業界、行政など)が対話・協働し、それを政策決定や知識創造へ結びつける「共創」のプラットフォーム構築を推進しています。
「サイエンスアゴラ2018」は11月9日から11日にかけて、日本科学未来館とテレコムセンタービルで開催されました。テーマは前年と同じ「越境する」。私たち一人ひとりが心豊かに生きていくために科学技術をどう取り入れていくのか、科学技術には何ができるのか――。こうした課題を学問分野、立場、国、文化、世代の壁を越えて、ともに考える場となりました。
 
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アゴラ概要1
                   ※クリックすると画像が大きくなります。

 
イベント3日間の概要に触れると、9日は日本科学未来館で開幕セレモニーと基調講演、キーノートセッションが行われました(概要:https://www.jst.go.jp/sis/scienceagora/
10日・11日は会場をテレコムセンタービルに移し、若手研究者や大学生、中高生らによるブースとセッション、科学者との対話、シンポジウム、ワークショップなど、誰もが参加できる120企画を実施。Society5.0(※1)の実現に向けた先端技術の紹介や、AI時代の「考える力」を問うシンポジウム、次世代の子どもたちがSDGs(※2)を考えるワークショップなどが催されました。
参加団体・学校のブースはテレコムセンタービルの各階(1・3〜5・8・20階)に配置され、「宇宙空間からの観測で災害に備える仕組み」「ゲノム編集と食や医療の関係」「発達障害児への支援」「特定の疾患を抱える人が快適に日常生活を送れるファッション素材の開発」など、幅広い話題を取り上げたテーマが来場者の関心を高めていました。
そうした中、経営支援NPOクラブは4階にブースを出展。現場を尋ねると、ブースの周囲にバナースタンド2本を立てて、会員たちが元気よく呼び込みを行っています。若者のあふれる会場で一際目立つシニアたちの溌剌とした姿。バナースタンドには『実務経験豊富な達人と「企業と学校のつながりについて語ろう!」』という文字が。
絶えず若者が訪れるシニアたちのブースは、他のブースとは異なる“アナザーワールド(別世界)”の趣を醸し出し、周囲の注目を集めていました。来場者はいったい何に興味を持ち、何を期待して訪れていたのでしょうか?
 
同NPOのサイエンスアゴラ参加の経緯や出展内容、当日の様子などから、それを探っていきましょう。
 
 ※1【Society(ソサエティー)5.0】
 日本が提唱する未来社会のコンセプト。狩猟社会(Society1.0、農耕社会(Society2.0、工業社会(Society3.0、情報社会(Society4.0に次ぐ第5の新たな社会を、デジタル革新、イノベーションを最大限活用して実現するという意味で名づけられた(※ウィキペディア引用)。 
 ※2【SDGs(Sustainable Development Goals)】
 2015年9月に国連総会で採択。貧困、教育、気候変動など多岐にわたる17の目標と、より細かい169のターゲットを設定し、2030年までにその解決を目指すとしている。
 
image006_20190125182825635.jpg  ▲バナースタンドに加え、ブース壁にはA3版プロフィールも掲示。来場者の関心を大いに高めた。

 ◆企業OBが「実務の達人」となって来場者と対話
 
経営支援NPOクラブ(以下NPOクラブ)がサイエンスアゴラに初めて参加したのは2014年のこと。以来、「次世代若者支援」の一環で毎年ブースを出展しています。
 NPOクラブについては、以前本サイトで紹介(「リタイア後も輝く」:18年7月31日公開)しましたが、もう一度、その組織体制や活動内容、特徴などを振り返ってみましょう。
 
 NPOクラブは02年6月、総合商社の三井物産OBを中心に立ち上げられたNPO団体です。東京都の「特定非営利活動NPO法人」には、同年10月に認定されました。会員のほとんどが一部上場企業出身で、リタイア後、しばらく子会社の社長や専務、常務を務めていた人が多いのも同NPOの特徴です。そうした会員の豊富な知識や経験、人脈を活かすべく、「ビジネス分野での社会貢献にボランティア精神で取り込む」ことを基本理念に掲げ、全国の中小・地方企業の経営をサポートしています。
 現在、東京・千代田区の内神田を拠点に活動しており、直近(18年5月現在)の会員数は正会員が212人、法人で構成される賛助会員は12法人を数えます。正会員の出身企業数については120余社に及び、ほぼ全業種(機械、化学品、食料、不動産・ホテル、百貨店、環境・エネルギー、IT、金融、医療福祉など)を網羅している点が注目されるでしょう。

出身企業1 
 
 また、同NPOには人事・財務・経理・法律など管理部門のスペシャリストがそろい、海外駐在経験が豊富な人材も多いことから、幅広い視点でフレキシブルな経営サポートが可能な団体として高い評価を得ています。
 NPOクラブの主な支援内容は、経営相談や販路開拓、展示会・フェア出展時の来場者招聘、海外展開支援等で、経済産業省からも相談や依頼が寄せられるなど着実に実績を積んでいます。16年には東京都から「認定NPO」の資格も取得しました(※全国のNPO法人約5万2000社中、認定NPO取得はわずか1080社弱。東京都でも275社)
 
実績1 

 ほかにもNPOクラブでは、会員の自由闊達な意思を尊重し、自然大災害復興支援や次世代若者育成支援、内部研究会(ヘルスケア研究会、IoT研究会、新素材研究会、エネルギー産業研究会)などの活動にも精力的に取り組んでいます。
 次世代若者育成支援では、会員が学校等へ出向く「出前授業」も熱心に行っており、サイエンスアゴラへの参加はそれがきっかけになったと、元理事長で三井物産OBの荻田浩特別顧問は振り返ります。
 「出前授業で人気の『企業OBによる理科の実験』を、理科教育の先生方の集まりで披露する機会があったんです。そのときは、油圧のメカニズムを説明する器具を使ってデモをやりました。すると先生方にも大好評で、『ぜひ、サイエンスアゴラに出てみたら』と熱心に勧められましてね」
 14年の初参加以来、毎年ブース出展しているNPOクラブ。今やすっかり同フォーラムの常連になりました。ちなみに例年の出展内容は、先生たちにも好評だった理科の実験ではありません。全業種・業態の企業等の実務経験者がそろう特色を活かし、会員が「実務の達人」となって生徒や学生、社会人等と「学校と社会と仕事のつながり」について語り合う場を設けています。
 
荻田氏 
                    ▲荻田特別顧問
 

 ◆「共に学びつながる」のトピックで採択されたNPOクラブ
 
 NPOクラブの今回の出展企画タイトルは『実務経験豊富な達人と「企業と学校の繋がりについて語ろう!」』。前述の通り、ブース横のバナースタンドにも書かれています。会員22人が「実務の達人」となり、来訪者と対話しました。各達人のテーマは下の通り。地球温暖化や世界のエネルギー事情、半導体、AIといった内容から、女性活躍や登山家・故栗城史多さんの話題、コンピューター易占いによる進路相談・人生相談まで、実にバラエティに富んでいます。
 また、『2020東京オリンピックに向けて!』『ポケモンGOが動くのは…』『鉄はスマホの保護者!』などのタイトルも若者の心をつかみ、NPOクラブのブースに対する親近感を高めていました。
 
達人テーマ1
 
サイエンスアゴラの出展企画の公募は、例年6月頃に開始され、外部有識者による審査を経て8月頃採択が決定します。
今回サイエンスアゴラ主催のJSTは、テーマ「越境する」にもとづき、下の4つのトピックスを設定して公募を実施。NPOクラブはトピックに関する出展内容で応募しました。

アゴラトピックス1 
 
一方、NPOクラブではブースの広さを1区分から2区分に拡大したほか、バナースタンドを設置し、達人たちのA3版プロフィールも壁に掲示するなど、例年以上に意欲的な取り組みをみせました。
また、東京工業大学院生、東京商工会議所千代田支部とのコラボレーションも注目されます。
東工大院生については、同大「リーダーシップ教育院(※3)」とのコラボとして担当教授と留学生を含む学生6人がブースを訪れ、達人たちの話を聞きました。その後、12月下旬に達人2人がリーダーシップ教育院で講義(※コラム参照)を行ったほか、今年1月中旬にはワークショップを実施するなど引き続き交流を深めています。
一方、東商千代田支部は子どもたちに対し、東商の仕組みや活動を早い時期から知ってもらうのが今回の狙い。初めてのサイエンスアゴラで少し戸惑い、若干アピールに苦戦しましたが、いい経験になったようです。なお、東商千代田支部はイベント後の11月14日に「千代田ビジネスフェア」を開催し、NPOクラブも参加しました。
 
 ※3【東京工業大学 リーダーシップ教育院】
 東工大が設置する組織。院生(特に博士後期課程の修了者)がそれぞれの分野を越えて、社会の課題を解決に導く「知のプロフェッショナル」として活躍できることを目指し、そのための能力を養う教育プログラムを実施。
 
東工大講演1

 
 
 ◆“人が人を呼ぶ” NPOクラブのブース
 
 NPOクラブのブースでは、どの達人も笑顔を浮かべ、若者たちと楽しそうに対話しています。周辺では会員たちが熱心に呼び込みを行っており、その中にはNPOクラブがインターンシップで受け入れている大妻女子短大生2人の姿もありました。はにかみながらも明るく、元気に大きな声を出しています。
 ブースの相談席が埋まっているときは、近くのソファーで対応する達人もちらほらいました。それが却って気楽に立ち寄れる雰囲気を演出し、来訪者が後を絶ちません。「人は人が来るところに集まる」といわれますが、まさに“人が人を呼ぶ”状態です。常に人が滞留するNPOクラブのブースに、イベント関係者からも驚きの声が聞かれました。

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 対話時間は一人あたり10〜15分が目安。しかし、達人も来訪者もつい熱心になり、制限時間を大幅にオーバーしてしまうケースがほとんどでした。荻田特別顧問は語ります。
 「やっぱり、我々は若い人と接する機会があまりないわけです。それに訪問してくる人はみんな問題意識が高いから、話していてこちらも参考になります。若い人たちも我々世代と話す機会がないだろうから、お互いにいい刺激をもらっていると思いますよ」
 今回のサイエンスアゴラでNPOクラブのブースを訪れた来場者の人数は、前回より多い187人(10日:88人、11日:99人)。イベント全体の参加者数が4021人(来場者:2764人、出展者:1218人、ゲスト:14人、プレス:25人)だったので、総数の約5%が達人たちと話したことになります。来訪者内訳や反応は下の表の通り。社会人が41%、大学生が30%、高校生が10%を占めました。
 
アンケート結果1
 
  
 ◆もっと学校と社会をつなげる“橋渡し”を
 
 例年NPOクラブのブースを訪れる若者たちについて荻田特別顧問は、人生や進路、学びに関する相談が多いと語ります。
 「社会人の方は企業に勤めていても、このままでいいのかといった悩みをよく話します。大学生は将来どういう方向に進めばいいのか、そのためには何を学べばいいのかなどのアドバイスを求めてきます。前回は大学院生がたくさん来て、民間の研究室に行くべきか、大学院に残るべきかなどの相談を受けました」
 ちなみに今回は、中学生や小学生の訪問も例年に比べて多かったのがトピックスのようです。
 「半導体やAIのことなど、わりと専門性の高い質問もあって驚きました。僕なんかは中学2年生から、『将来、世界を舞台に活躍したいので、どんな勉強をしたらいいですか?』って質問されましてね。国際化の時代だから、日本だけじゃなく海外にも目を向けている。若い中学生が高い目標を持って学んでいるのが印象的でした」(荻田特別顧問)
 NPOクラブではサイエンスアゴラ後、「達人」になった会員から感想や課題などを報告してもらいました。その一部を紹介しましょう。
 
達人感想1
 

 達人たちと対話し、満足そうな笑顔を浮かべてブースを後にする若者たち。「自分の創造性を刺激できて面白かった」「将来の研究開発に必要なマインドを教えてもらった」「子どもの頃にこうした機会があれば、もっと視野が広がった」などの感想が聞かれました。彼らのコメントも下の通り紹介します。

訪問者感想修正

 ブースを訪問する人の中には、学校の先生の姿も散見されました。荻田特別顧問によると、毎回よく訪ねてくるそうです。
 「イベントの出展で生徒たちを引率してきた先生たちが、時間の空いているときにいらっしゃるんです。よく尋ねられるのは、今の時代、子どもたちを教えていくうえで何が重要かという質問ですね」
 荻田特別顧問自身、今回のサイエンスアゴラで小学校の先生から、「グローバルな時代に生徒をどのように教育したらいいか」という相談を受けたそうです。
 「その先生は、やや迷っておられるような感じでした。僕が常々感じていることですが、日本の場合、学校と社会が隔絶していて、先生方でさえ、実社会のことをよく把握されていないのではないでしょうか。そういう意味で、我々のような企業OBが先生や生徒さんと話す機会を持つことは、大変意義があると感じています」
 他の会員からも、「これ(ブース出展)を年1回に終わらせず、もっと広く多くの方々と触れ合う場をつくっていくべき」「子どもや主婦など、幅広い層が集まる展示会との併設、百貨店・ショッピングモールでの開催なども検討しては」などの積極的な意見があるとか。荻田特別顧問は、「NPOクラブは、学校と社会をつなげる“橋渡し”の催しをもっと企画して、実行することが重要」と力を込めます。
 今後、ますます活発に展開されそうなNPOクラブの「次世代若者支援」活動。企業OBの知力・活力を社会に活かす好事例として、広く世間に周知されていくことでしょう。
 
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 今回の特集は、NPOクラブさんが次世代若者育成支援の一環で参加している「サイエンスアゴラ」に興味を持ったのがきっかけです。
 そもそも「サイエンスアゴラ」とは何か? そのような専門的内容のイベントで、企業OBの方々がいったいどのような活動をしているのか? 話を聞いてもなかなかはっきりイメージできず、モヤモヤは晴れませんでした。
 でも、会場に足を運び、実際に場内の雰囲気に触れてみて、「サイエンスアゴラ」というイベントの狙いや特性をよく理解することができました。そして、それを若者たちと交流し、育成支援する機会へとアレンジするNPOクラブさんの柔軟な発想に、改めて目からウロコが落ちる思いがしています。
 会場で若者と達人たちが楽しそうに対話する光景は、まさに「越境する」をテーマに掲げるサイエンスアゴラを象徴するとともに、「人生100年時代」における社会の在り方も示しているようでした。
 学校と社会をつなげる“橋渡し”の催しをもっと企画したいと意欲を燃やすNPOクラブさん。学校へ出かける「出前授業」にも取り組んでいることもあり、今後の展開に引き続き注目です!


「シニアの知力・活力を社会に活かす!」おわり/次回は生涯スポーツの雄、
グラウンド・ゴルフの日本協会設立に尽力した初代事務局長の回顧録です
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