音楽呼吸法②
- 2018/10/01
- 11:00
音楽に合わせて呼吸し、心身のバランスを整える「音楽呼吸法」。
その考案者である宮浦清さんは、音楽活動に集中するあまり、実は40代後半まで不摂生な生活を続けていました。呼吸についても、サックスを吹くとき以外は特に意識していなかったそうです。
しかし、ある日突然、呼吸困難に陥ったことから呼吸に関心を持ち、独自で研究を開始。呼吸がカラダやメンタルの改善に大きく寄与することや、音楽との関係性の深さに気づきました。
呼吸の研究はさらに深まり、やがて「音楽呼吸法」を体系化し、企業や医学研究会、またスポーツの世界も大きな関心を寄せていきます。
今回は「音楽呼吸法」誕生の経緯や企業・スポーツ等での指導エピソード、そして「童謡唱歌呼吸法」を紹介!<全3回>
◆呼吸困難をきっかけに呼吸への関心高まる
ある日、仕事に行こうと歩いていたときのことです。突然呼吸困難になり、息がまったく吸えなくなりました。
「このまま死ぬんじゃないか」
パニック状態になるほど、すごい苦しみに襲われたのです。
ほうほうのていで近くの喫茶店に入り、少しずつ呼吸を整えて、どうにか仕事に向かうことができましたが、「これから先、何度も同じことが起きるのではないか」と深刻になりました。
それまでの私の生活というと、ライブ以外は作曲などデスクワークが中心で、音楽に全精力を傾けるために、日常の運動や階段の上り下りさえも極力避けていました。仕事先への移動も車に乗り、歩く機会がほとんどない。
そんなことだから当然、健康面はマイナスになるわけで、体力が落ち、糖尿病も患って体中がむくんでいる状態でした。
そんなことだから当然、健康面はマイナスになるわけで、体力が落ち、糖尿病も患って体中がむくんでいる状態でした。
やはり、何か運動をしなければいけないとジム通いを始めましたが、心臓弁膜症ですぐに疲れてしまい、なかなか継続できません。
どうすればいい……と悩んでいるとき、はっと気づいたのがサックスを演奏する際に使う腹式呼吸でした。
サックスを吹くときは腹式呼吸を意識しているけど、いったん楽器を置くと、もう呼吸のことなんか考えもしない。なすがままの呼吸に任せて、生活していたんです。
もしかしたらと思い、1日24時間できる限り腹式呼吸を実践してみようと決心し、やり始めたら体調が目に見えて変化していきました。カラダを動かすのがしんどくなく、走っても苦しくない。息切れしない。気分も爽快になり、とても驚きました。
このような効果を体験したとき、「天命」のようなものを感じて呼吸の研究に没頭し始めたのです。
◆呼吸研究を独自に開始し、音楽呼吸法を体系化
私の両親は町医者でした。私が先天的な心臓弁膜症で、不整脈が出ていたことを診断してくれたのも親です。幼いころからまわりの友達とくらべて疲れやすく、そのことが気になり、小学6年生のときに父が診てくれました。
病気が判明した後も手術せず、そのまま普通に生活し、親と同じ医師を目指していましたが、大学受験のときに強度の色盲であることもわかり、医学部志望を断念せざるを得なくなりました(※当時の規定で医師資格がとれない)。そうした経緯もあって別の大学へ進学し、結果、音楽の道が開けていったのです。
もちろん音楽も、お琴の演奏家だった祖母の影響で幼いころから大好きでした。中学に入ると吹奏楽部でクラリネットを始め、大学ではジャズクラブでサックスを吹きコンサートマスターも担当。さらに音楽を極めるため、米バークリー音楽大学(ボストン)で学びました。
そして今、音楽家として活動しているわけですが、やはり医者になりたかった思いが、心のどこかでくすぶっていたのかもしれません。だから、腹式呼吸の効果を感じたとき、呼吸の研究を極め、新しいメソッドを開発するのが自分の天命であり、使命だと強く感じたのでしょう。
それからというもの、仕事の傍ら図書館へ頻繁に通い、呼吸に関する本を読み漁り、知識を貪欲に増やしていきました。一方で、理解したことを実際に試してみたり、いろいろな呼吸法の効果も調べていきました。
そして学んでいくうちに、「すべての生命の基本が呼吸の“質”にある」ことに気づき、専門家の誰もがいう「息をたくさん吐くことが大事」なことも改めて認識しました。
しかし、時計をみながら「6秒で息を吸って、10秒で吐く」といった、一般的な呼吸法はどうにもわかりづらい。もっと楽しみながら呼吸訓練ができないかと思案していたとき、身近な音楽が閃いたんです。呼吸パターンにはまる音楽を作曲すれば、メロディーに乗って楽しく訓練ができると。
さっそく曲づくりに入りましたが、実際に取り掛かってみると、「息を吐いたり、吸ったりするのは何小節がいい?」「テンポはどのくらい?」など、まったく検討がつきません。
そのため呼吸関連の本だけでなく、生理学、解剖学といった本も読み込むなど徹底的に調べました。その結果、息を4小節吐いて2小節吸う基本パターンが生まれたのです。この呼吸パターン、本特集の第1回を読まれた方はもうおわりですね。吐く息が倍になる「腹筋呼吸法」のパターンです。
このように、音楽呼吸法を体系化していったのは2004年ことでした。
▼音楽呼吸法①掲載「腹筋呼吸法」のパターン
▼音楽呼吸法①掲載「腹筋呼吸法」のパターン
◆音楽とリズムの医学的効果を証明、さらなる展開へ
音楽呼吸法は当初からリズムを重視してきています。呼吸だけでなく、音楽のリズムも人間の脳やカラダ、生理などに効用を持っているという持論に基づくものです。
その音楽呼吸法を初めて人前で披露したのが04年暮れのこと。知人が勤める企業のクリスマスイベントに呼ばれ、10~15分ほど簡単に話しました。
続いて05年春に東京都倫理法人会(一般社団法人倫理研究所)で話す機会があり、その頃になると曲もいくつかできていたので、iPodで音を流しながら説明し、音楽呼吸法を実際に体験してもらいました。それが評判となり、この年だけで20カ所ほどから声が掛かりました。
当時、「メンタルヘルス」の重要性が認識され始め、企業・学校などで従業員や学生の精神的ケアを目的としたセミナーが頻繁に開催されていました。その中のリラクゼーションプログラムとして、音楽呼吸法が注目を集めたのです。
企業では三菱重工やNTTドコモなど、学校では専修大学や河合塾などでレクチャーし、工場だと1日200~300人の前で話すこともあり、800人を相手にしたときは本当に大変でした(笑)。
ちょうどこの頃、リズムの重要性を強調する意味もあり、呼吸法の名称に「ボディリズム」という言葉も併用して使うようになりました。「ボディリズム音楽呼吸法」という名称です。
08年の秋になると、東邦大学医学部の有田秀穂教授のもとで、(ボディリズム)音楽呼吸法の医学的な検証が始まりました。
08年の秋になると、東邦大学医学部の有田秀穂教授のもとで、(ボディリズム)音楽呼吸法の医学的な検証が始まりました。
有田先生は心身のバランスをとる脳内物質「セロトニン」の世界的な権威で、私も先生の著書を読んで大きな影響を受けていました。その頃、周囲から(ボディリズム)音楽呼吸法に医学的バックボーンを得た方がいいという助言もあり、有田先生に接触を試みたところ面会を快諾してくださり、(ボディリズム)音楽呼吸法の医学的検証につながったのです。
08~09年にかけて検証した結果、(ボディリズム)音楽呼吸法がセロトニンの活性化に有効であることが証明され、データがそろってきた10年にスポーツ医学研究会「フィールドケア21」で研究成果を発表。そして同年、私は有田先生が主催する「セロトニンDojo」の師範に就任することになりました。「私が研究してきた呼吸法は間違っていない」。この確信は、次の新たな展開へと私を導いていくのです。
◆女子バレーボールチームで指導、実績を積む
13年から女子バレーボールチーム、「デンソーエアリービーズ」(以下デンソー)で(ボディリズム)音楽呼吸法を指導するようになりました。
私はかねがね、呼吸の質や大切さを熱心に学び、理解してくれるのは「紙一重のことを追求している人たち」と考えていました。例えばアスリートや受験生など。紙一重の勝負で戦っている人は、呼吸法で少しでも上に行けると知ったら、真剣に取り組んでくれるはずです。特にスポーツの世界で(ボディリズム)音楽呼吸法を広めたい気持ちが強くあったので、デンソーでの指導は力が入りました。
一方、デンソーの方も前年の12年シーズンは成績が振るわず、V・プレミアリーグの下部リーグ、V・チャレンジリーグへ18年ぶりに降格した時期。監督が代わって指導方法も一新し、生まれ変わろうと試行錯誤していたので、さまざまなことにチャレンジできました。
その頃はまだ説明用の画像がなかったので、ホワイトボードを使って監督やコーチ、選手たちに私の考える呼吸法を講義。それとともに、アスリートにとっての“リズム”も教えました。
“リズム”については、アスリートはよく「リズムが相手に流れて負けた」といいます。でも、「なら、リズムって何ですか?」と聞くと誰も答えることができない。そうした経験から、アスリートに“リズム”を理解してもらう必要があると考えたのです。
また、監督やコーチと協力して斬新な練習方法も開発しました。相手チームのアタックをブロックするための音楽をつくったのです。
相手がトスを上げ、アタックする場面を想定し、アタックを打ってくるポイントへの「移動」、そして「ジャンプ」「ブロック」するまでの時間を選手たちの動きから細かく計測。3つの動きを1.2秒から0.9秒で行うリズムパターンをつくりました。
その音楽をコートの外で流し、選手たちにそれを聴きながらブロックの動作を繰り返すよう指導したのです。このような練習方法は、世界でも例がないのではないでしょうか。
選手たちの秒数は段々と縮まっていき、ついに音がなくても俊敏に動けるようになりました。
デンソーでの指導は14年までの2年間でしたが、最後の年には見事プレミアリーグ復帰を果たし、指導の効果を示すことができました。
◆「ランニングミュージック」でオリンピック選手誕生
女子バレーで挙げた成果はその他スポーツの世界でも知るところとなり、第一生命女子陸上部の関係者も(ボディリズム)音楽呼吸法に注目しました。「ぜひ、試してみたい」という申し出を受け、15年に同陸上部で指導することになります。
この頃からプロジェクターを使って説明するようになり、合宿所ではグラウンドで選手たちの走る様子をじっくり見学した上で、「走る」ということや、「音楽と呼吸」について話しました。
それからは(ボディリズム)音楽呼吸法をビデオを通じて教えつつ、コーチの協力も得て選手のための「ランニングミュージック」を作曲。その後、コーチの話によると、伴走用の自転車やクルマにラジカセを積み、音楽を聴かせながら選手たちのトレーニングに活用したそうです。
「ランニングミュージック」は、音楽のテンポと走るテンポをぴったり合わせるのがミソ。音楽のテンポと走るテンポがずれていたら、音楽が“走るためのエンジン”にならず、単なるBGMに過ぎなくなります。
またメロディーについても、「タッタッタッタッ、タッタッタカタン」といったリズムの途中で「タッタッ…タッ、タッ…タカタン」と音が抜ける部分もあえて設け、音がない間、リズムがきちんと刻めているか、次に音が聴こえてきたときにテンポがしっかり合うかなど、注意を促す工夫もしました。
その効果のおかげか、選手たちは自分の走りと音楽がセッションしている気分を感じ始めてくれたようです。いわゆる「ランナーズハイ」状態とでもいうのでしょうか。徐々に効果が現れてきました。
その選手たちの中から、16年のリオデジャネイロオリンピックでは、田中智美選手(マラソン)と上原美幸選手(5000m)が日本代表に選ばれました。前述のデンソーからも鍋谷友理枝選手が日本代表に選ばれており、(ボディリズム)音楽呼吸法の指導を受けた3人がオリンピック出場を果たす嬉しい結果となりました。
デンソーや第一生命での経験は私自身、かなり勉強になりました。本当に専門性を極めている人や、しっかりした理論を持つ人たちとなら、どんな分野でも音楽を使った呼吸法を開発していける。大きな可能性を感じ、自信を持つことができたのです。
その後、17年2月に私の呼吸メソッドを(ボディリズム)音楽呼吸法から元々の名称「音楽呼吸法」へ正式に名称変更し、バージョンアップに向けた取り組みを開始。そして、誰にでもわかりやすく実践できるよう音楽呼吸法の“見える化”に取り組み、今年に入ってある程度完成をみました。
こうした経緯を経て、音楽呼吸法の普及を本格的に開始しましたが、まだまだ発展途上です。今後もさらに呼吸の研究を重ね、より完成度の高い音楽呼吸法に体系化していく考えです。
◆「童謡唱歌呼吸法」をやってみよう!
さて、今回は「音楽呼吸法」の代表的エクササイズの一つ、「童謡唱歌呼吸法」を紹介しましょう。
<童謡唱歌呼吸法(呼吸と童謡唱歌)>
簡単で懐かしく、誰もが気軽に唄える童謡や唱歌。でも、息を吸う吐くのディレクションは定められていません。そこで「童謡唱歌呼吸法」では、呼吸のタイミングをあらかじめアレンジの中に組み込み唄うことで、単なる歌唱が呼吸法になるわけです。
今回は「花」と「故郷」を題材に呼吸法を実践してみましょう。
〇は息を吸うところで、〇は息を吐くところ。“見える化”でつくった画像では、●が音に合わせて動いていきます。
まず、歌に入る前の4つの〇でたっぷり息を吸い、〇の4小節を息つぎせず一息に唄います。
4小節を息つぎせずに唄い、その上で4拍たっぷり息を吸うことで深い呼吸が可能になります。
一息に4小節を唄うのは結構苦しいですが、後半は声が小さくなっても構いません。息を吐き続けることが目的なのです。慣れてきたら、たっぷり息を吐きながら、大きな声で唄いましょう!
<ちょっとアドバイス!>
歌を唄うのが苦手な人や恥ずかしい人は、メロディーに合わせて息を吐いたり
吸ったりするだけでもOK!
声帯の刺激はありませんが、呼吸法訓練にはなります。
とにかく気軽にやってみましょう!
吸ったりするだけでもOK!
声帯の刺激はありませんが、呼吸法訓練にはなります。
とにかく気軽にやってみましょう!
◇「音楽呼吸法③」に続く~次回はご年配のエルダー必読!
「俳句川柳呼吸法」「嚥下筋強化呼吸法」のエクササイズ方法、
音楽の新しい展開形「ポストミュージック」の概要を紹介!
「俳句川柳呼吸法」「嚥下筋強化呼吸法」のエクササイズ方法、
音楽の新しい展開形「ポストミュージック」の概要を紹介!
* *
<音楽呼吸法創案者>
宮浦 清
作曲家、サキソフォニスト、呼吸研究家、セロトニンDojo師範
合同会社音楽呼吸®総研代表
【お知らせ】
②アンチエイジング健康ライブ
音楽呼吸法体験会& Bossa Nova JAZZ LIVE
2018年10月5日(金)開催
<出演>
宮浦 清(サックス)、羽仁 知治(ピアノ)、越田 たろま(ギター)
宮浦 清(サックス)、羽仁 知治(ピアノ)、越田 たろま(ギター)
<第一部>
アンチエイジングのメソッドとして最適な音楽呼吸法のダイジェスト版を、
創案者の宮浦清が音と映像を使って紹介します。
創案者の宮浦清が音と映像を使って紹介します。
<第二部>
初秋を彩るアダルトでクールなボサノバを爽やかなアコースティックギターと
ピアノのサウンドにのせてお届けします。
ピアノのサウンドにのせてお届けします。
アートカフェフレンズ(東京都渋谷区恵比寿南1-7-8-B1F)
開場18:00 開演19:30 チャージ3500円(+1ドリンク500円)
主催:音楽呼吸総研 後援:夕刊フジ
予約・問合せ:アートカフェフレンズ(03-6382-9050)
③DVD『歌と映像で誰でも身につく音楽呼吸法』を11月下旬に発売開始!
<第1弾> 4,800円(税別)
・アクティブシニア向け健康カラオケ
・歌と映像で健康レクリエーション
・童謡唱歌 音楽呼吸法
<第2弾> 4,800円(税別)
・誤嚥対策、首回り美容健康対策に
・歌と映像で健康レクリエーション
・嚥下強化 音楽呼吸法
(問い合わせ先)
合同会社 音楽呼吸®総研
東京都足立区千住1-4-1 東京芸術センター10F
050-5305-6109